今日は早起きをした。否、させられたと言ふべきであらうか。 猫にも友人にも困つたものである。 06:05 喪失街、綿貫家 「綿貫ー綿貫ーいるんだろ。出て来いー」 とんとんと戸口を叩く音が遠く耳を打った。なんだというのだ。しかしまだ眠い。睡魔は未だ自らの上に覆いかぶさっている。重く、重く、生温かく……? 「うわぁっ、伽羅!?」 薄目を開けると顔の上に猫がのっていた。白い猫、飼い猫だった。 「何してるんだ!」 勢いよく起き上がると猫はぺろりと布団の上に落ちて、なぜだか非難がましい目で僕を見てきた。 なんだというのだ。 戸口はまだ叩かれている。もうなんだかがつんがつんという音になってる。 「綿貫! とっとと開けろ!」 怒鳴り声。友人の声だ。 置き時計を見るとまだ六時になったばかりだった。 なんだというのだ! 怒りにまかせてがらりと戸を開くと、予想通り友人の骨董品屋が立っていた。 「何の用だ!」 「お、やっぱり居たな。いるならもっと早く出て来い。綿貫、縄梯子を貸してく れ」 「は?」 「縄梯子だ、縄梯子」 「あ、ああ」 捲し立てるように話す彼に圧倒され、起きたばかりで働かない脳は思考を止めた。僕は首を捻りつつ、納戸を開けて棚をあさった。 「これで良いのか」 「ん、あぁ。上出来だ」 「何だってこれが必要なんだ?」 「井戸に入るから」 短く答えて礼も言わないまま、彼は身を翻して去ってしまった。冬なのにビーチサンダルで酷く寒そうな足下だった。 まだ薄暗い中に白い足が浮かび上がっていたが、しばらくして見えなくなった。 「なんだっていうんだ…」 にあ、と伽羅が小さく鳴いて僕の膝を軽くひっかいてきた。この白い猫は彼が嫌いなのに、どうして僕を起こして彼に協力しようとしたのだろうか。 しばらく伽羅のつやつやとなめらかな白い毛並みを撫でていたが、半分眠っている頭ではやっぱり理由が思い付かない。 僕は溜め息をついて、苦く笑った。 「伽羅、朝御飯にしようか」 白い猫はにぁ、と嬉しそうに鳴いた。 |
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