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先生と一緒! 番外編:緑間くんと男性用コロンと十代目の右腕
まだ緑間くんと沢田先生が直接面識がない頃、夏の合宿が秀徳とぶちあたった時のお話。
「真ちゃーん、もう部屋出てこいよー」
「どうしたんですか?」
黒子と火神が朝食を終えて、ひとまず部屋に戻ろうとしたところで、秀徳側に割り当てられた一室の前で高尾がどんどんとドアをたたいている光景に出くわした。
あ、と言う顔をする彼に黒子が首をかしげる。
「あ、黒子」
「「?」」」
「絶対俺はここから出ないのだよー!!」
黒子、火神が首をかしげたところで、ドアの向こうからそんな叫びが聞こえてきた。
言うまでもなく黒子の元チームメイトであり、現在の高尾のチームメイト、秀徳のエースにしてキセキの世代のNo1シューター、緑間真太郎その人である。
「あーもう、今先輩たちが捜してくれってっから」
だからせめてご飯食べようよーと、と言う高尾の足元にはラップの掛けられたトレイが置いてあった。おそらくは緑間の朝食だろう。
甘やかされてますねぇと、黒子が呆れたように目を細める。
黒子の予想が正しければ、おは朝の占い結果が悪くて外に出たくないとでも言っているのだろう。中学時代は虹村、赤司と言う絶対王政と言う名の恐怖政治が引かれていたので緑間もさほどわがままを言わなかったし、中3時代は彼自身が副主将であったのでかなり自分を律していたように思う。
現在はそんな強烈な先輩もおらず、彼自身が「後輩」の立場にあるので甘えていると言えなくもない。
「何してんだ、あいつ?」
「ラッキーアイテムじゃないですか?」
「ラッキーアイテム?」
首をかしげる火神に黒子が説明するよりも早く高尾が苦笑いを浮かべる。
「あー、黒子も同中なら知ってっか。そうなんだよ。今日おは朝で12位でさ、ラッキーアイテムが男性用コロンだったわけ」
「それはまた…」
微妙に僕達に縁遠いものを…と、黒子が眉を下げた。モデルでもある黄瀬ならともかく、健全なスポーツ少年には少々縁がないものだろう。
少なくとも、誠凛の部員たちは誰も実に纏っている者はいない。秀徳のレギュラー陣も同じらしく、現在先輩たちが宿の人などにあたっていると言う。
「あ?なんだその占い信じてるのか?」
「おは朝を馬鹿にするんじゃないのだよー!!!」
「うぉ!?」
「まぁ、緑間くんにとって死活問題なのは確かですね」
首を傾げた火神に、再びドアの向こうから抗議の声が上がる。その音量の大きさに思わず高尾が一歩後ろに下がり、黒子の首が傾く。
火神としては別にバカにした覚えはないので、「あーまぁ、人それぞれだしなー」と軽く流した。人種の坩堝であるアメリカでは、それこそ宗教的理由だのなんだので理解不能な行動をとる人間はいくらでもいた。
「一応、先輩たちも持ってないか聞いてみますね」
「恩に着る!」
ほら真ちゃん出ておいでーと、再びドアをノックし始めた高尾を置いて、黒子と火神は自分たちの部屋へと戻った。それから、午前中はロードワーク予定の先輩たちに尋ねたものの、結果は散々なものだった。
「あぁぁ?そんなん持ってねーよ!」
「オレも持ってないなー」
まず日向が何突然色気づいてるんだとクラッチタイムに入りかけ、その横で誠凛バスケ部一のもて男が首を振った。
あわてて自分たちが使うんじゃないと言い訳をする火神に、小金井が「水戸部が沢田先生が持ってるんじゃないかって!」と言って後ろの水戸部を指差した。
その場にいた全員が、「え?」と言う顔をするが、土田がそう言えば。と言うように手を打つ。
「そう言えば、先生香水つけてるって彼女が言ってたかな…」
「あー、そういやあの先生、いい匂いするよなー」
「聞いてみます」
黒子はそう言って踵を返した。
バスケ部の副顧問である沢田は、誠凛高校の臨時職員と言う事もあって、特に決まった仕事はない。加えてバスケ部の一切はカントクことリコと主将である日向、そして会計の伊月が取り仕切っているため、ほどんどやることがない。
あえて言うならば、「大人」が必要になるような場面だろうが、そんな場面はそうそうないし、起きても困る。
そんなわけで、正規顧問である武田の代わりに合宿に同行している沢田であるが、やることと言えばせいぜい荷物番か、テツヤ2号のおもりぐらいで、今も宿の一室にいた。
「沢田センセ…」
「はぁ!?こっち向かわせたって…場所…いやだからさ!」
黒子が沢田に声を掛けようとすると、何やら言い争うような声が聞こえた。沢田の声が一方的に聞こえてくるところからすると、おそらくは電話か何かだろう。
おもわずこっそりと部屋の中をうかがえば、やはり携帯電話を耳に当てながら沢田がうろうろと歩き回っている姿が見える。
が、すぐに沢田は黒子の姿に気が付いたようで――高尾や伊月のような特殊な目を持たないのに、沢田はなぜかすぐに黒子に気が付く――少し驚いた顔をした後「ちょっとまって」て言うジェスチャーを黒子に向ける。
黒子が頷いて頭を引っ込めるのと同時に、沢田の声が再びした。
『あぁもう、わかった、わかりました。オレが迎えに行くよ!誕生日はフォローしねぇから覚えとけよこのクソガキ』
黒子が聞きとれない言語――少なくとも英語ではないだろう――で何やら吐き捨てたらしい沢田は、通話を終えたらしい。
「どうしたの、黒子くん」
いつも通りの穏やかな口調で、黒子の入室を促した。
黒子は再びひょこりと顔を出すと、男性用の香水を持っていないかどうか尋ねた。沢田は驚いたように目を見開く。
「香水?うん、まぁ、向こうじゃ割とメジャーだし。あ、もしかして臭い?」
「いえ、全然気にならないです。と言うか、先生によくあってると思います」
ふんふん。と、自分の腕に鼻を近づける沢田。日本人は匂いに敏感だから気を付けてたんだけどなぁ。と、いう彼に近づいて黒子も意識してみれば、なるほど確かに沢田からはほのかに香りが漂ってくる。
柑橘系に近いようだが、どこまでも広がる青空の下で深呼吸したかのような臭いだった。
「そう?ありがとう。伝えておくね」
黒子の言葉に沢田がへにゃりとゆるんだ笑みを浮かべる。
伝える?と、一瞬彼の言っていることの真意を受け取りかねた黒子だが、それどころではないことを思い出す。
「伝え…?あ、それで今日一日ビンがあったら貸してもらえませんか?」
「いいけど、何に使うの?」
「使うと言うか……」
首をかしげる沢田に、黒子は困ったような表情で中学時代のチームメイトのことを話せば、彼は「そう言えば」と呟いた。
「はーそう言えば、そんな占いを見たような気が…。まぁいいよ。持っていきな」
「ありがとうございます」
今の日本では変なのが流行ってるねぇ。と言う沢田に、いえ、本気で信じているのは一部だと思います。と、黒子は内心でそう返したのだった。
まさかこれがきっかけで、沢田がおは朝を見始め、さらに面白がってラッキーアイテムをそろえるようになるなんて、夢にも思っていなかったのである。
「恩に着るのだよ!!!!!!」
黒子が先ほどの部屋に戻ると、相変わらず緑間は籠城していた。ただ食事のトレイがなくなっているところを見ると、朝食だけは食べたらしい。
差し出された小瓶に、緑間が顔を輝かせる。
「お礼はうちの副顧問にお願いします」
「もちろんなのだよ!」
あ、でも、この後出かけるらしいですから、夕方にお願いしますね。と、先ほど沢田に言われたことを伝えると、緑間も頷く。
おは朝信者で電波で、愉快な語尾をつける男だが、礼儀正しく義理堅いことは間違いないのである。
そこに、緑間から連絡を受けたのか、秀徳のレギュラーたちがやってきた。
「緑間ぁ!!!」
「お世話掛けました!手に入ったのだよ!」
「よぉし、木村、パイナップル!」
「なぜなのだよ?!」
驚愕する緑間に、高尾がげらげらと笑う。黒子はとりあえず彼らに頭を下げると――どうせ気が付いていないだろうが気分の問題だ――そっとその場を後にした。
笑いながらもそんな黒子に手を振った高尾はさすがと言うべきだろう。
「しかし、どこから調達したんだ?」
「誠凛の副顧問にお借りしたのだよ」
「おま、他校に迷惑かけんなよなー」
大坪の言葉に緑間がそう言えば、宮地が呆れたようにため息をつく。
緑間の奇行は今に始まったことではないし、スカウトの条件が1日にわがままを3つまで、と言う事や、ラッキーアイテムがないと深刻な命の危機にさらされることがあるなどで秀徳の面々は割と諦め気味だが、さすがに他校、それもIHで負けた相手にまで迷惑をかけるのはいかがなものだろう。
しかし、1年レギュラーの二人はそんな三年生の葛藤を全く意に解した様子もなくじゃれ合っている。
ほんとこいつら轢きてぇと、宮地が青筋を浮き上がらせるのも仕方がないだろう。
「真ちゃん、それどんな匂い?!」
「知らないのだよ」
えーちょっと、嗅いでみようぜと、高尾が緑間の手から小瓶を引き抜く。それを見ながら、宮地はロードワークに出ることを思い出した。近くの体育館は誠凛との兼ね合いもあって時間厳守が鉄則だ。
ただでさえ緑間のラッキーアイテム騒動で時間が削られているのである。
「いつまでじゃれ合ってんだ、外行くぞ!」
「「あ」」
「あ?」
びくり。と、宮地の怒鳴り声に二人の手が震えた。タイミングが悪かったのかよかったのか、ちょうど小瓶のふたが開いたところで、わずかだが中身が緑間のTシャツや手にかかってしまったのだ。
「あーーーーーー!!」
「宮地先輩のせいなのだよ…」
「真ちゃんすげー、さわやかな匂いする!」
「あぁもう、手洗って来い!そしたらロードワーク行くぞ!」
少量だったせいか、気にしなければ気にならない程度だが、限らんれない匂いと言うものは妙に気になるものだ。
しかもそれが気に喰わないツンデレ電波の緑間からと言う事に、宮地が顔面を引きつらせると、蹴りを入れる勢いで緑間を底から追い払ったのだった。
理不尽なのだよ。と言いながらも緑間は小瓶をしっかりとふたを閉めると手洗い場に向かって歩き出す。そこに、やはり彼らも練習に出かけるのだろう。動きやすい格好をした黒子と火神の姿があった。
「緑間くん?」
「黒子」
「なんか、すごい匂いしますけど」
黒子の言葉に同意するように火神が頷く。緑間がはぁと、ため息をつく。
「預かった香水を少しこぼしてしまったのだよ。詫びをしたいのだが、副顧問の先生はどこなのだよ」
もう出かけてしまったのか?と言う緑間に、黒子と火神が頷く。
「そうなんですか…先生は、なんでもイタリアからの知り合いがこっちに来てるとかで、あわてて迎えに行きました」
「イタリア?」
「イタリアからの帰国子女の英語の先生なんだよ」
なぜイタリア?と言う顔をする緑間に、火神がそう言って付け加えた。緑間がますます不審そうな顔になった。
「なんだその意味の分からん経歴は」
「英語、イタリア語以外にもいろいろしゃべれるそうですから、問題ないみたいですね」
本人は国連参加国の言葉なら大体大丈夫だ。と言っていたところから、最低でも英語、イタリア語のほかに、フランス語、中国語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語はマスターしていることになるだろう。
もっとも、彼の友人には27か国語を平気で操る存在がいるので、源流を同じくする言語を複数喋れたとしても自慢できることではないらしい。
「それは、すごいのだよ」
「その分日本語の敬語は怪しいそうですが……まぁ火神くんほどじゃありません」
「うるせ!」
黒子の言葉に火神が吠える。その言葉に緑間が少しだけ驚いたように火神を見た。
「帰国子女なのか」
「まーな」
頷いた彼に、緑間はふぅと、ため息をつくとメガネを押し上げた。
「どおりで中学時代に名前を聞かなかったのだよ。まぁいい。後でちゃんと礼と謝罪に行くのだよ」
「わかりました」
緑間はそう告げると、彼らの横を通って手洗い場に向かって行ってしまった。
「なんだぁ、あいつ」
「よかったですね」
その背中を見送った火神の呆れたような呟きに、黒子がわずかに笑みを浮かべるとそう言って肩を竦めた。
「は?なにが?」
「認めてくれたみたいですよ。緑間くん」
「はぁぁ?!あれのどこが?!」
訳が分からないとわめく火神に、黒子はくすりと小さく笑みをこぼしただけでそれに応えることはなかった。
[newpage]
「秀徳ー」
「ファイ!」
「オー!」
緑間が合流した秀徳のレギュラー陣はロードワークに出ていた。
掛け声をあげながら午前中の夏の日差しを浴びながら走る。途中、何人かの地元の人間や、観光客らしき集団とすれ違ったが、見るからに運動部である彼らに「頑張れよー」などと言う声援が飛ぶ程度だ。
毎年ここで調整を行っている秀徳高校の面々は、すでにこの季節の風景の一部なのだろう。
そして、そんな中、スーツ姿の男とすれ違ったところで男が声を掛けた。
「おい、そこの人参!」
「!?」
「ぶほぉ!!!」
どなっているわけではないが、思わず立ち止まってしまうほどの迫力のある声に、緑間が目を見開き、続いて高尾が噴き出した。
「に、にんじん?!」
「お前の事だお前」
びしりと、スーツ姿の男が緑間を指差した。
現在緑間は秀徳高校のオレンジ色のジャージの下と、同じ色の練習着を着用していたので――余談だが他の面々も同じだ――その特徴的すぎる髪の色と合わせると確かに人参に見えなくもない。
「オレは人参じゃないのだよ!?」
「そんな頭とジャージきて人参じゃなかったらなんだってんだあぁ?!」
スーツの男はガラが悪かった。身長こそは緑間よりも10センチほど低いが――つまり185程度だろう――灰銀色の外跳ねの髪に緑がかった瞳をしたなかなかの美形――緑間や宮地を見慣れた秀徳高校の面々が思わずそう思うほど――である。
だが、宮地を三倍にしたぐらいガラが悪そうだった。
「あー、たしかにな」
男の言葉に宮地が緑間を上から下まで見た後に思わず、と言うように同意した。それを受けて高尾がぶるぶると震えながらかつての記憶を掘り起こす。
「し、真ちゃん中学時代制服白かったよな」
「じゃ、その頃は大根か」
「こんなひょろ長い大根があってたまるか」
まじめな顔で木村がそう突っ込みを入れた。八百屋の息子としては見逃せないところだったようだ。
「き、木村先輩突っ込むとこそこ、じゃ、ない」
「オレは野菜じゃないのだよ!」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
男の方から言いだしたことなのに、男はあっさりそう言い切った。
思わず押し黙ってしまった秀徳の面々に、男は緑間を指差す。
「お前その匂い!」
「は?」
「その香水は十代目のためだけに調合されたもんだ。てめぇあの人とどこで接触した?!」
「あ、あの人?」
「十代目?」
え、何の事?と、秀徳の面々が目を白黒させる。そんな彼らに男はいったいどんな誤解をしたのか、元から険しい表情をますます険しくする。
しかし、理不尽な言いがかりをつけられて黙っていられるほど秀徳の面々はおとなしくなかった。
大体緑色の頭の奴は気に入らねぇんだよ。と、言われても困るだろう。
「あぁ?んだてめぇ!?」
宮地がそう言って言い返すが、男は懐に手を差し込むと秀徳の面々を見据える。
「もしあの人に何かしたっつーなら、はた」
「何してんの、隼人!」
「じゅうだいめぇぇぇぇぇ!!!!」
そこに、鋭い声がしたかと思った瞬間、目の前の男は秀徳の面々の前から消えていた。いや、消えたかと思うほどのスピードで声の主の方へと駆け出して行ったしまったのだ。
そのまま、その人物は声の主――まだ若い男性だろう。男とは違ってラフな格好で駆け寄る男の頭に鉄拳制裁を加えると、ぺこぺことこちらに向かって頭を下げ、男を引きずって立ち去って行った。
一瞬の、まるで嵐のような出来事に、秀徳高校の面々はしばし立ち尽くした。
「「「………………………」」」
「な、なんだったのだよ」
「……………さぁ?」
訳が分からないよ。と、高尾がどこかで聞いたことのあるような呟きを漏らし、緑間も黄瀬みたいなやつなのだよ。とため息をついた。
そんな1年生に、ようやく事態を理解した三年生も再起動を始める。
「とりあえず、今日の緑間のわがままはもうなしな」
「そうだな」
「理不尽なのだよ…」
絡まれたのはオレのせいじゃないのだよ。と、ぼやきつつも反論しない緑間は、やはりなんだかんだ言って混乱していたのだろう。
秀徳の面々はそのままロードワークを再開したのだった。
「十代目、お久しぶりです!」
「本当にね」
キラキラとした眼差しを向ける自身の右腕――獄寺隼人に、沢田は頭痛をこらえるように額を押さえた。
一応、ボンゴレ幹部にも夏休みと言うものはある。現在沢田不在で本部を回してもらっているものの、休みはちゃんととるように言ってあったので、獄寺も休暇を取ってこちらに来たのだろう。
一応、公的に沢田綱吉こと、ツナヨシ・マルコッティは病気療養中で日本にいると言う事になっているので、その右腕が日本に来るのはさほどおかしいことではない。
しかしこんなところまで来ては逆に目立つだろう。東京で待っててくれればいいのに、と言う沢田に。一刻でも早く十代目に会いたかったんです!と、獄寺は実にゆがみのない答えをくれた。
二か月程度じゃこの右腕は変わらないな。と思いつつ、綱吉が尋ねる。
「それにしてもどうやってここまで来たのさ。リボーンから駅名だけは伝えたって聞いたけど」
「はい!十代目の匂いをたどってきました!」
「…………そ、そう」
―――しばらく見ないうちにどうしちゃったんだろう、隼人。
耳がいいのは知ってるけど。周りに駄犬扱いされているうちに本当にそうなっちゃったのかな。と、綱吉は眼の前の右腕の迷いのない答えに顔を引きつらせる。
「そう言えば来る時に十代目の匂いを付けた人参がいましたけど」
「は?人参?」
「はい!」
え、人参て、あの人参?と、思いつつも詳しいことを聞いてもこの右腕からまともな説明があるとは思えない。
頭がいいはずなのだが、どうにもいろいろと残念なのがこの獄寺隼人と言う存在なのである。
沢田は「イタリア、そんなに大変なのかなぁ」と、自分不在での守護者やアルコバレーノ、ヴァリアーの騒動をさばいているだろう獄寺や山本、ハルを思って首を振った。――ちなみに沢田不在時は止める人間がいないと言う理由で、各々自粛していることを知らない。
「十代目?」
「隼人」
「はい?」
じっと、自分を見つめてくる敬愛する主人の視線に、獄寺が不思議そうに首をかしげる。
そんな獄寺に、沢田はため息をついた。
「ご飯、食べに行こうか」
「はい!」
キラキラした表情でうなずく獄寺に、沢田は歩き出す。コミュニケーション不足を解消するにはやはり一緒にご飯を食べるのが一番だろう。
―――とりあえず相田さんには今日は戻れないって連絡しておこう。
なお、翌日は誠凛が帰る予定だったため、結局緑間は沢田に直接会うことができず、彼らが合うのはまだ少し先の事である。
そして沢田が「人参」を理解するのは、WC予選における、誠凛vs秀徳の試合の時であった。
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