あれ、と阿部は眉を上げた。

三橋にしてはめずらしいモスグリーンのカジュアルなマフラーだ。

普段、三橋はごくごくシンプルな――――それでもどこか気品のあるブランドを身に纏って
いるように思う。

だからか、モスグリーンという色と大柄に編まれたマフラーをしている三橋に違和感があった
のだ。

「田島くんが、貸して くれ、て」

どうやら今日、三橋はマフラーをしてこなかったらしい。

自宅が自転車で1分だと言う田島が借したのだそうだ。

田島は三橋をエースとして認めている。そして、阿部と同じくらいに三橋を大切に
している。

その思いのベクトルだけが違うだけ。

認識される互いのベクトルが違うだけだと。思いたい。

不意に黙り込んだ阿部を、三橋が伺っている。

軽装でいたことか、田島に迷惑をかけたことで阿部が不機嫌になったのだろうかと
判断する三橋に、別にいーけどと零しながらも、阿部は自身のマフラーを弄びながら唇を
尖らせた。

(・・・クソ)

モスグリーンに埋もれる柔らかな頬が羨ましかった。

寒さからか、頬を紅潮させている。

まるで喜んでいるように見えたのだ。

自分以外の人間の所作で、幸せそうに頬を緩ます三橋に果てない焦燥感を抱く自分は確実
に末期症状だ。

阿部は、自身が巻いていたマフラーを外すと、多少強引ではあったが豊かなモスグリーン
を押し退け三橋の首元に巻いてやる。

「・・・明日、田島に返し忘れたらマズいだろ。俺は他にも持ってっから」

キョドキョドと視線を泳がせた後、それでも「ありがとう」
とつっかえながらも
言ってきた。

押し付けがましい親切心ですら、素直に受け止める。出逢った頃からは考えられなかった。

自身の気持ちを拙いながらも汲み取ってくれる。

もうそれだけで充分だ。

三橋の言葉一つで胸の奥に燻る恋心が阿部を締め付ける。

そんな阿部に気付くことなく、三橋は言い訳がましい理由で外された田島のマフラーを
阿部の首に巻いた。

「阿部くん、風邪引いたらいけない、し」

先ほどの強引かつ横暴な阿部の“明日田島に返すのを忘れてはいけないから、持ってきて
やる”というお膳立ても成立した。

こうして阿部のマフラーを貸すきっかけもできた。

阿部は周囲の気配を察した後、手を伸ばせば届く三橋の手首を引き寄せ、そのまま細身の
身体を抱き寄せる。

ふわふわのクセ毛が阿部の首筋に擦り付けられ、焚きつく欲望を沈めることに集中する。

そんな阿部の苦労に気付かず、三橋は何が嬉しいのか伏された阿部の首筋に頬を擦り付ける。

フヒっと笑うことで阿部の薄い皮膚に三橋の吐息が掛かった。







「田島くんの匂いがする」







聞き捨てならないセリフに、ちょっと待てと思わず眉間に皺が寄る。

「・・・なんで嬉しそうなんだよ」








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