何かに弾かれたように彼女は駈け出して階段を上り、男の腕をつかんだ。
男は驚いたように振り返って、彼女の顔を見ると「おう、」と少し笑った。
俺は駈け出した彼女を捕まえ損ねた右手を持て余したまま階段下で何もできずに立ち尽くす。
男はたしかに、彼女が以前不機嫌な顔で好きな人だと教えてくれた奴だった。
不機嫌な顔をしていても薄く頬が照れたような色に染まっていたのを覚えている。
その男の隣には、かわいらしい小柄の女の子がいた。
その男の彼女か、となんとなくわかった。

ああだとしたら、


駅のホームに電車が到着する時間が迫って、俺を邪魔くさそうに避けながら
急ぐように階段を上っていくサラリーマンやOLや学生の作りだす喧騒で、
彼女と男の声は聞こえない。

そして階段の途中で話す、彼女と男とその女とを俺はただ見守るけれど、
彼女の背中からは何も読み取れないまま男が笑って、
隣の女が感じ良さそうに頭を下げて、二人は電車に乗って行った。


リーマンOL学生も、次々と電車に吸い込まれていって、
階段途中にぽつんと立つ彼女と、階段の下で彼女を見上げる俺が残った。





( 濁った先に見た透明を 1 )

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