『凸凹コンビ』
それは、ホントに突然だった。
仕事を終えた後彼が行く、馴染みの店。
珍しく食事に誘われたから、馬鹿みたいに有頂天になって。
念入りに化粧直しをして、意気揚々と出かけた先は、近所の屋台。
何勘違いしてたんだろう。
槇村は唯の同僚として、私を食事に誘ってくれただけなのに。
恥ずかしくて、顔を上げられなかった。
「冴子、どうしたんだ?食べてないじゃないか…」
「あ…、何でもないの…」
私ってば、ホントに馬鹿。
このまま俯いてたら、槇村が変に思っちゃう事も分からないなんて。
あ~、私って駄目な女。
「なぁ、冴子…」
「な、なぁに?何か悩み事?私で良かったら相談に乗るわよ?」
「あぁ…、俺さ、今…いるんだ…。その…、好きな奴がさ…」
「えぇっ!?」
仰天発言に、思わず大声で叫んじゃったわよ。
だ、だって、あの槇村がよ?
私以外の女と喋りもしなかった槇村がよ?
私以外に好きな人が出来るなんて…。
考えもしなかった…。
「どんな人なの…?」
「え?」
「その相手の女の人に決まってるでしょ?」
「あぁ…、俺には勿体無い人だよ…。でもさ、俺は知ってるんだ…。人前ではさ、1人で全部出来るから大丈夫だーみたいな態度をしてしまうんだけどさ、影では1人で泣いてるって事…。不器用だけど、自分なりに一生懸命で…。そんな所が可愛いなんて…さ…」
「ふーん…、そう…なん…だ…」
私とは正反対の女性。
最初っから勝ち目なんて、これっぽっちもないじゃない…。
100%失恋決定な、私の初恋。
ホンッと、嫌になる。
1人で浮かれて、のこのこ着いて来て。
挙句の果てに、片想いの男の恋愛の悩み相談を受けちゃってる。
馬鹿みたいじゃない…。
「んで?何の仕事してんのよ?」
「…俺達と同じ警察官」
「同僚…なんだ…」
「あぁ…、しかも、俺なんかよりずっと、ずーっと有望されてる」
「だからかぁ…」
「何だよ…?」
「いつも、どんな小さな事件でも、一生懸命なの」
「…別に、その人に認めて貰いたいなんてこれっぽっちも思ってないさ…。唯、警察官としてやらなきゃいけない事をしただけだから…」
「うーん…、でも、その人は何処かで見てるんじゃない?」
「そうか…?」
「きっとそうよ」
そう。
誰かが認めてなくても、少なくとも私は槇村の事を認めてる。
警察官としても、1人の男としても…。
「で?」
「で?って? 何が?」
「決まってるでしょ!告白よ!コ・ク・ハ・ク!しなきゃココでうだうだ言ってても意味が無いでしょ!」
もう失恋決定だから。
こうなりゃぁ、もうヤケクソになるしかない。
片想いの男のキューピッドにでも何でもなってやるわよ。
「…冴子」
「何よ?」
「こんだけ言ってても、分からないか?」
目の前で溜息吐いてる。
私、また変な事言っちゃった…の…?
「あのなぁ、俺はお前にその告白してたんだよ。ずーっとなっ!」
「へ…?」
告白!?
槇村が、この私に!?
嘘、でしょ…? ドッキリカメラでも隠れてんじゃないの?
「あのなぁ、嘘でもドッキリでもないんだ!俺がお前に今告白してるんだぞ!いい加減気付けよ!」
「わ、分かったから!落ち着いてよ!」
店の周囲には、何事かと集まってきた野次馬がズラリ。
私と槇村は、慌てて屋台を後にした。
「…でも、何で?」
「何がだよ…?」
「私なんて、可愛げゼロだし。仕事だけしか能がない女よ?」
「別に、損得勘定で好きになったワケじゃない」
「意地っ張りだし」
「俺も相当だぞ?」
「家事なんて、出来ないし」
「俺がやってやるよ」
「朝だって、ホントは凄く苦手だし」
「俺が起してやるよ」
「食事だって、外食続きになるかも…」
「俺がお前の分まで弁当作ってやるよ、毎日な」
「それでも…、イイの…?こんな私で」
「それでも俺はお前がイイんだよ」
槇村が、私の大好きな笑顔でクシャリと笑った。
もう、それだけで充分。
エネルギー、100%補充完了。
あぁもうっ!
どうしてなんだろ。
槇村の言動の1つ1つに、こんなにも一喜一憂してる。
私が勝てない唯一の相手。
ホントは凄く嬉しいくせに。
やっぱり、即可愛い女には変身出来っこない。
「ま、まぁせいぜい頑張りなさい?」
「…お前なぁ」
「1つだけ…、約束しなさい」
「何だよ?」
「私より、少しでも長生きする事!」
「あぁ…、約束する」
「ホントにホントよ!約束破ったら、あんたの墓参りになんか絶対行かないから!」
「あぁ…、約束する。だから…」
"ギュッ…"
ホントに自然に抱き締められて。
「槇村の姓を一緒に名乗ってくれないか?」
そう、耳元で呟かれて。
もう、それだけで幸せだった。
幸せ過ぎて死んじゃいそうなくらいに。
だからね? 槇村。
もっと長く私を幸せに浸らせてね?
全てが夢じゃないと思えるくらいに…。
Fin