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お礼文は現代物短編『スパイスは、愛情です』となっております。

スパイスは、愛情です。 1

俺の親父の飯は美味い。
普通に美味いだけじゃない。父子家庭での努力と、男ならではの妙なこだわりによって上達した親父の腕は、そこらのレストランのシェフの腕と張ると思う。
俺は十歳の頃に親父と母さんが離婚してから、その飯をずっと味わい続けた。
俺はその後、幸いにも片親の家庭にありがちな情緒不安定になる事もなく、変にひねる事もなく、まあ普通に心身ともに健康な成長を遂げた。親父本当にありがとう。
……とまあ親父に感謝する俺であるが、どういう事か妙な問題が一つ残ってしまった。
親父のうますぎる飯。それを毎日食っていた俺の舌は、普通の家庭料理では満足できないほどに肥えてしまったようなのだった。

というわけで。
「ごめん、正直いうとこの飯まずい」
人生において五番目の彼女の、正直に言ってくれ、という願いに応じて素直にそう答えてしまった俺を誰が責められよう?
「………え?」
「いや、だからその、舌が肥えててさ、俺―――」
……平手打ちされて部屋を追い出されました。

「それはお前が悪い。絶対にお前が悪い」
追い出されて逃げかえったアパート。ちゃぶ台越しに五年来の付き合いの親友兼同居人が、夕飯の親子丼を咀嚼しながらびしっ、と俺を箸の先で示す。
「そーゆう時はな、『君が作ったものなら何でもおいしいよ』とか言うとくべきやねん」
「だって、正直に言ってっていうから…!」
「甘い! 女心が分かっとらへん! 正直に言えゆうてもな、その裏でお世辞を期待するのが女というもんや。
 舌が肥えとるんがなんやねん。スパイスは愛情! ぐらいの心意気でまずい飯ぐらい克服せえ」
「…無茶言わないでよ」
ため息をつく俺に、溜息をつきたいのはこっちやで、と応えて親子丼を俺に差し出す友人。
俺はそれを受け取り、箸の方に手を伸ばしながら、努力するよ、と答えておいた。



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