06.あなたの拍手が糧になる








「はぁ…」

憂鬱な顔つきで、書面を地面に置いた。

「どうして、私はこんな失敗をしてしまうんだろう…」



丞相の期待に応えたいのに、何故こんなにも上手くいかないのか。



再度、はぁ、と溜息をついて、書面を睨む。



「姜維さん、何してるんですか?」



びくっ!!



「…大丈夫ですか…?」
「び、びっくりした…。あなたでしたか…」
驚きのあまり、思わず心臓を抑えて飛び退いて。

「どうして、こんな所に?」


そう   ここは人気のない城の裏庭。
そこの池の前で、彼は背中を向けて座り込んでいたのだ。


「い、いえ………別に」
「もう夕暮れですよ、冷える前に戻りましょ?」
ね、と促し、手を差し伸べて。

「あ…それ」
姜維の足元に、見覚えのある書面が目に付いた。


「こ、これは…その…!」
彼女の視線から逃れるように、慌ててそれを隠す。
「この前の、戦術説明で使った物ですよね?」
     えっと………はい…」

ようやく観念したのか、隠していたものを取り出して、彼女の前に見せる。

「姜維さんが、指揮をするんですか?」
この問いかけに、姜維は無言で首を振って。
「いえ」
「そう、なんですか?てっきり   
「私には、向かないんです」
下を見つめたまま、ハッキリとそう告げた。

「……………どうして、そんな事言うんです?」
「この戦術は、丞相が組み立てたものです」

そして、また一つ、溜息をついて。



「私には―…才能がないんです」



麒麟児、などと呼ばれようとも、所詮はこの程度。
   師匠である諸葛亮を超える事も出来ず、彼のような奇策すら思いつかない。

「丞相のような軍師になど、私にはなれないんです…!」
「姜維さん」
不意に名前を呼ばれ、声につられて上を向いて。



ぺちん!



「あいたっ?!」



思わぬ彼女のでこピンで、面食らって目を瞬かせた。

「そんなこと、言わないでください」
「え…?」

覗き込めば、少し起こった、君がいて。

「―…才能がないわけ、ないじゃないですか」


こんなにも、頑張ってるあなたが。



「諸葛亮さんみたいに、ならなくたっていいじゃないですか…!」



   何も、同じになんて、ならなくたっていい。



「姜維さんには、姜維さんのやり方があるでしょう?」


人それぞれ違うように。
あなたには、あなたの良さがある。


「それは―…でも」
「最初から、出来る人なんていません」


     努力して、努力して。
その人に追いつこうとして必死になって。


「しかし   …」
「姜維さん、すごく頑張ってると思います」


   それって、すごく素敵な事ですよね?


「…このままでいいと?」
「先が見えなくて不安な気持ちもわかりますけど、結果を焦っちゃダメですよ」
「う…」
ふふ、と笑って。

「そんなに、焦ってますか?」
「んー…どうかな?」
あはは、と曖昧な返事を返して。
とにかく、と人差し指をビシッと突き立てて、
「姜維さんは、そのままでいいんですよ」
「そのまま…ですか?」
きょとん、として、繰り返す姜維に。
「はい」
それに、と付け足して。



「私は、今の姜維さんが好きですよ」



にこ。



「―――――っは、はい/////」



「さ、中に入りましょ!」
もう一度、手を差し伸べて。
今度は、その手に姜維が手を伸ばす。

「あの   ありがとうございます」
ポツリ、と呟かれた言葉は、風に乗って掻き消され。
「え?何ですか?」
「いえ…何でもないです」

少しだけ笑って、握る手に力を込めた。



     あなたの言葉、全部信じていいんですよね?









ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

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