ありがとうございました!コメントへのお返事は日記でさせて頂きます。


以下、お礼文。竹久々です。現在1種類。


* * *


たまの休日。

せっかく天気も良いことだしと、兵助と八左ヱ門は、町へと遊びに行っていた。

夕暮れ時の、その帰り道。

雷蔵と三郎への土産で買った、町で評判の団子をぶらぶらと揺らして歩いていた八左ヱ門の足下から、


「なぁん」


と、愛らしい高い鳴き声が聞こえた。


「お、猫だ」


三毛色が美しいその猫を、八左ヱ門はためらうことなくひょいと抱き上げる。

さすがは生物委員代表というべきか。

手慣れたその扱いに、兵助は思わず感心した。


「ほんとお前、動物さわるのうまいのな」

「そうか?まあ孫兵んとこの毒蛇とかよりは、毛のあるほうが得意かなー」


蛇も悪くはないけどな、などと言いながら、その手は抱き上げた猫ののど元を優しく撫でている。

出会って間もないはずのその猫は、すっかり気を許して、八左ヱ門の腕の中でごろごろと鳴いていた。


「飼い猫かな。人に馴れてる」


兵助が、そう言いながら猫に手をそっと伸ばしたときだった。


「ふにゃあッ」

「えぇ!?」


さっきまでののどかな顔はどこへやら。

急に険しくなったその猫の機嫌と、繰り出された爪に、兵助は慌てて手を引っ込めた。


「な…なんでだ!」

「はは、なんでだろうな」


居心地を悪くしたらしく、すとん、と猫が八左ヱ門の腕の中から地面へと降りる。

しかしそれでも、八左ヱ門の足もとから離れていく気配は無かった。


「なんか、お前に付いてきそうなんだけど」

「うーん」


どうやら気に入られてしまったらしい八左ヱ門は、しゃがみこんで猫の頭を撫でてやる。


「だめだよ、帰りな。…俺はお前を、最後まで可愛がってやることはできないから」


生き物を飼ったら、最後まで。

こんなふうに人肌を求める猫ならば、きっとずっとそばにいてやらなくてはいけないだろう。

でもそれをするには、あと数年で学園を卒業して忍となる将来は、あまりに危なげだから。


「それにな、俺、もう飼ってるからさ。手のかかる動物。

 真面目で堅くて、意地っ張りで素直じゃなくて、そのくせすげー淋しがりでさ。

 たぶんお前を連れて帰ったら、俺のこと独り占めしたがるそいつがやきもち妬いて大変だと思うんだ。

 俺がいなきゃだめみたいなんだよな。もー手のかかるのなんのって」

「…おい、はち」

「わかるか、俺の苦労。わかってくれるよなー。まあ手のかかる子ほどかわいいなんて、言うけどなー」


よしよしと頭を撫でながら、わざとらしく猫に話しかけている八左ヱ門の背中をじっとりと睨んでやる。

それはひょっとして、俺のことか。

素知らぬふりでいる八左ヱ門だが、その気配には気付いているはず。


「だからごめんな、お前を連れてはいけないよ」

「なぁん」


その上まるで、仕方ないなと返事のように、猫がそう一声鳴いたものだから。


参った、と。兵助は空を仰ぎ見た。

せっかくの、二人だけのこの大切な時間。

ああでも確かに、猫より自分をかまってほしい、などと思ってしまっている自分に気が付いて。


赤く染まった空と大きな陽が、やさしく二人を見下ろしている。

しばらくは、このまま。

照れて赤く染まってしまった自分の頬を、隠していてほしいものだと、そう思った。



Fin.




ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。