『ダーククロニクル』


「ふ~む……『正義』ですか」
「どういうカード?」
――――右手に剣、左手に天秤を持った、凛とした表情の女性が描かれたカード。
メイドが指で挟んでいるそのカードを眺めながら、モニカは訊ねた。
「言葉通り、このカードが示すのは正義です。他にはバランス、公平といった意味もありますね」
どうやら悪いカードではないらしい。しかし、今回の占いのテーマを考えると、些か腑に落ちない。
向こうが勝手に占うといった事だが、それでも意味が分からないのは嫌だ。そう思ったモニカは、少々照れを感じながらメイドに言った。
「あの、一つ訊いていい?」
「なんでしょう、モニカ様?」
「その……恋愛事で正義だのバランスだの公平だの言われても、ピンと来ないのよ。どういう解釈をすればいいの?」
「あらモニカ様ってば、『タロット占いなんて、興味ないわ』と仰っていましたのに、いざ結果が出ると、気になってるじゃないですか」
「う……と、とにかく教えてよ!私の、その……恋は、どういう恋になるのよ?」
ニヤニヤしているメイドにモニカが顔を赤くしながら訊ねると、メイドは「ご心配なく」と『正義』のカードを指に挟んだままヒラヒラと振ってみせた。
「恋に関しても悪い意味を示すカードじゃありません。……そうですね、誠実な恋という解釈がベストでしょうか」
「誠実な……恋」
オウム返しをしたモニカに、メイドは「そうです」と頷く。
「一時の情に絆されたが故の恋ではなく、本当に互いを思いやる心から成る恋。そういう事ですよ。勿論、周りからも認められ、祝福されるでしょう。当然、その恋は結婚にまで発展します」
「へ、へえ……」
「そして、互いに信頼し合い、バランスが取れた理想的な夫婦になると思いますよ。でも……」
「ん?」
不意に視線を明後日の方向に向けたメイドを見て、モニカは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ、占っておいてなんですが……こんな型破りな王女様が、そんな素敵な恋をするなんて、私とてもとても……きっと大層物好きな殿方なんでしょうね」
「ちょっと、どういう意味よ!?」
モニカが声を荒げると、メイドは脱兎の勢いでタロットをしまい、笑いながら逃げていった。










「…………とまあ、こんな事があったのよ」
「えっと……」
困惑し、頬を紅潮させて言葉を探しているユリスを見て、モニカはクスクスと笑う。
こんな風に、彼が戸惑うのは珍しい。その戸惑いが、自分への想いを表しているのが分かり、モニカは嬉しかった。
「タロット占いもバカに出来ないわね。そう思わない?」
「そう……だね」
ユリスはたどたどしくそう呟くと、不意に手を伸ばしてモニカの手を取る。
突然の事にモニカは驚き、ユリスの顔を見る。すると彼は、相変わらず赤く染まったままだが真摯な表情で言った。
「こうして君と一緒になれて、それが多くの人に祝福されて、本当に嬉しいよ」
「ユリス……私も……」
取られた手を握り返しつつ、モニカは震える声で相槌を打つ。
それを見て、ユリスははにかんだ笑みを浮かべた。
「そのメイドさんには感謝しなきゃね。会えない分、しっかりと心の中で」
「そうね」
「……さて、そろそろ出番だよ。準備は良い?」
「うん!」




――――モニカが笑顔で頷いてから程無くして、二人の前にあった教会の扉が開かれた。



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