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「安原の日常2」


 嘘吐き少年安原は、こうみえても可愛いもの好きだ。
 小動物のような、ちまっとしたものに堪らなく弱い。
 意外な性質を持った安原が今一番はまっているものは、東国丸という隣のクラスの男子生徒である。
 そう聞くと、なにやらあぶない雰囲気が漂うが、安原は純粋に東国丸という同じ年の少年を愛でているのだ。
 東国丸は、脳みそが足りないというより、むしろ無いといったかわいそうな頭脳と、突飛な発想からくる理解不能な行動で有名な生徒だった。
 東国丸といつもいっしょにいる高橋などは、ずばっと彼の勘違いや思い込みを切り捨てるが、安原はそんなことはしない。
 

「きみがそう思うなら、きっとそうさ」


 東国丸の頭を撫でながら、そういう安原は本当に幸せそうだ。
 高橋は、変な理解を示すなと怒り気味だが、そんなことは安原の耳には入らない。
 安原は本当に東国丸が可愛くて、可愛くてしかたがない。
 そして、東国丸は、安原が嘘をつくことができない唯一の相手でもあった。
 高橋にも嘘は通用しないが、それは高橋が安原並みに物知りなため、嘘が通じないだけだが、東国丸の疑うことを知らない純粋な瞳を見ると、安原の普段機能していない良心が激しく痛むので、嘘がつけないのだ。
 安原は、東国丸の有り得ない発想を尊敬すらしている。
 東国丸は純粋なので、優しくしてくれる相手には懐く。
 当然安原にも懐いた。
 そこで、クラスも偏差値も越えた友情が二人の間に芽生えたわけだが、面白くない人間がひとりいた。
 柳瀬ではない。
 柳瀬はふたりを微笑ましく、むしろ無責任に見守っている。
 常に彼は傍観者だ。
 余計なことはあまり言わない。
 面白くないのは鈴木である。
 いつも安原にだまされている鈴木は、安原とは幼稚園からの付き合いだ。
 自覚はないが、密かに安原に恋をしている鈴木だった。
 柳瀬と安原が仲がいいのも気に入らないのに、東国丸といると安原は鈴木の存在をすっかり忘れてしまう。
 なんだか悔しい。


「弟にお母さんを取られた兄って、こんな気分なのかな」


 鈴木は柳瀬にこう洩らしたが、どちらかというと幼馴染の好きな子を、新しくできた友達に取られた男の子の焼餅である。
 あんな母は嫌だと思った柳瀬だったが、安原が他人と親しくしていると、もやもやしてくる気持ちはわかるので、何も言わなかった。
 複雑な人間関係がいつの間にか構成されていることを、安原はまったく知らないのだった。





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