なんでこんなところで眠れるんだろうか。
翼は目の前で心地良さげに夢の世界の住人と化している恋人を見つめて、溜め息をついた。
確かに待ち合わせに遅れたのは自分なのだが、だからと言って公園のベンチで眠ってしまうことはないだろうに。
ああ、でも、寝顔も可愛いな。
大きな目が閉じられていて、何一つ余計な手の入っていない黒髪が、秋の穏やかな日差しの下でキラキラと輝いている。
すぅ、と落ちる呼吸音ですら愛しいなんて、重症なんだ。
それもこれも、可愛い将が悪い、と心の中で責任を押し付けて、翼はそっと恋人の隣りに腰を下ろす。
秋を迎え、紅葉に彩られた公園は、その光景を楽しみに足を運ぶ人達で賑わっていた。
夏場は少なかった人通りが嘘のように、今はそこここに散歩を楽しんでいる人々がいる。
翼と将の目の前を通りかかる誰もが、柔らかい微笑みを持って将を見つめていく。
無邪気で無垢な、子どもの寝顔。
暖かな陽だまりの下で輝くその表情は、誰しもの心を癒すのだろう。
人々から向けられる好意の眼差しには気づかず、すぴすぴと眠り続ける将。
当然、隣りに翼がいることにも気づかない。
羽織っていたジャケットをぬいで、そっと将の肩にかけた。
昨日電話をしていた時に、とても弾んだ声が返ってきたことを思い出す。
将のことだ。楽しみで眠れなかった、なんてことさえ言いかねない。
自惚れではなく、翼の愛しい少年がそういうことは解っていた。
――俺も、そうだったから、なんて言えないけどね。
明日、将と二人きりで時間を過ごせるのだと思ったら、椎名翼ともあろう者が見事に睡眠不足だ。
ああ、これもやっぱり可愛い将が悪い。
本日二度目の責任転嫁をして、隣りの寝顔を覗き込んだ翼は一つ大きく瞬きをしてから、微笑んだ。
可愛い想い人の髪の毛に、小さな紅葉が降りていた。
髪飾りのようにも見えるその紅は、将の黒髪に良く映える。
「ったく……。紅葉まで夢中にさせるなよな、将」
お前は、俺のものなんだからさ。
艶やかな囁きと一緒に、口づけを眠る恋人の頬に落として、翼も静かに目を閉じた。
穏やかな日差しの下、眠る恋人たちの表情は、幸福で満ち溢れている。
END
眠る恋人
-ホイッスル!// 翼将-
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