09 水中戦

純「夕呼せんせ~、水中専用戦術機って有効なの?」
夕「有効性は有るわよ。非効率だけどね」
純「どうして?」
夕「水中専門なら足がいらないじゃない。『戦術歩行戦闘機』である必要がないわ」
霞「偉い人にはわからない……」
純「そのセリフ、二重の意味で聞いた事があるようなっ!」
夕「冗談半分よ」
純「また騙されたー」
夕「戦術機の根本的な役割を考えてみなさい」
純「う~ん。BETAをやっつける事でしょ?」
夕「単純にBETAを多く殺すという意味では、支援砲撃車両に遠く及ばないわ」
霞「突撃砲と砲撃の火力を比較すれば明らかです」
純「でも、車両だけじゃBETAに飲み込まれちゃうよ」
夕「そうね。即ち戦術機の最重要の役目は足止めと囮よ」
霞「野戦での基本戦術は、戦術機でBETAの足を止めて飽和攻撃によって殲滅するです」
夕「小集団は砲撃で狙うのが非効率だから、戦術機が殲滅する必要があるけれどね」
霞「殺すことより生き残ることが重要なのは、精神論だけではありません」
夕「戦術機の自衛装備が重視されてるのはその為ね。撃墜されない限り囮の役目は果たせるわ」
霞「運動性や機動性を殺さない為に、火力より取り回しが重視されてます」
純「えーと、戦術機の役目が足止めと囮だと、水中戦術機の役目は水中での足止めと囮?」
夕「水中から海底のBETAをいくら攻撃して殺しても、無視して進まれるから足止めにも囮にもならないわ」
霞「そうなると重要なのは時間当たりに殺せる量、つまり威力です」
夕「水中で砲撃より威力の高い兵器なんて無理ね」
純「でもでも、水中ならBETAに攻撃されないで、一方的に攻撃できるよ」
夕「それは大きなアドバンテージだけれど、絶対的なものじゃないのよ」
霞「レーザー照射がない状況下での攻撃ヘリと同じです」
純「横浜基地防衛戦の時だね」
夕「そっ、広範囲焼尽のナパーム系が配備されていれば、かなり違ったけれどね」
霞「水中では、良くてチェーンガンの水中戦仕様でしょう」
夕「そもそも一方的に攻撃できる兵器なら、いくらもあるわ」
霞「現状でも光線属種集団なりを狙って爆雷を投下しているでしょうが、宇宙起源だけあってBETAは耐圧能力に優れています」
夕「洋上迎撃は非現実ってわけ、地雷や機雷も費用対効果がいまいちよ」
霞「BETAは一部が欠けても動き続けますし、誘爆も圧壊もしてくれません」
夕「結局は砲撃を厚くする方が有効だって事になって、そっちに予算を回す事になるのよね~」
霞「砲撃ですら、飽和攻撃でないと効果が低下する程です」
純「じゃあ、戦術機が主力扱いされてるのはなんでなの?」
夕「それだけ、BETAの足止めって役目が重要で難しいからよ」
霞「工作機械であるBETAには、要塞の類があまり効果的では有りません」
純「水中戦術機で、水中のBETAを足止めできないの?」
夕「海底で進路を塞げば可能でしょうけど、その場合は必然的に近接戦をする事になるわね」
霞「レーザーを封じれるのは大きいですが、戦術機が水中でどれだけ運動性と機動性を発揮できるか……」
夕「そもそも水中には砲撃できないから、足止め自体の価値が激減するわ」
霞「レーザー抑止の為に効率を無視するなら、全てAL砲弾で砲撃するとかの方が有効です」
夕「水際作戦がやたらと効果的なのは、後衛の光線属種を水中に封じた状態で、こっちは前衛のBETAを砲撃できるからよ」
霞「水蒸気爆発を懸念してか、水中の光線属種はレーザー照射を行いませんので、一方的である上に効率的な攻撃が可能です」
夕「ま、その状況でも大侵攻ともなると、地下侵攻もあって抜かれるんだけど」
霞「上陸地点の範囲も広くなりますしね」
純「それじゃあ、水中戦術機は?」
夕「有れば水中で光線属種を集中的に狙わせるけど、開発に予算を回す気にはならないわ」
霞「運用に問題の無いの兵器なら、有ればなんでも使いますからね」
夕「効果のない兵器なんて滅多にないわ。重要なのは費用対効果よ」
霞「大概のオリジナル兵器は、砲弾備蓄の増加以上の費用対効果を持てません」
夕「後は補給車両や補給艦の増産ね。支援砲撃が途絶えない状況こそ最良よ」
霞「作者は中途半端に現実的なので、戦略に関わらないオリジナル兵器には否定的です」
夕「まあ、低コストなら考慮の余地は出るわ。とりあえず手足はいらないわね」
霞「水陸両用なら兎も角、水中専門なら人型である必要性がありません」
純「冗談だって言ってたのに」
夕「半分は冗談って事は半分は本気なのよ」
純「微妙にニュアンスが違うような……」
夕「気のせいよ。まっ、個人用潜水艇に火器を取り付けた様な物で十分ね」
霞「ガン○ムのボー○みたいなイメージです」
純「それで光線属種を狙うんだねっ!」
夕「そっ。ただし大規模配備しないと開発費に見合わないし、大規模にやる程のメリットを感じないわ」
霞「第四計画が成功すれば大陸が主戦場に戻りますから、新兵種として想定寿命が短すぎます」
夕「それに大きなリスクも有るのよねぇ」
霞「BETAが対応として、水中属種を出してくる可能性があります」
夕「そうなったら薮蛇ね。艦隊は容易く壊滅させられるわ」
霞「魚雷の大群と戦うような戦闘に成りかねません」
夕「宇宙に海のある惑星は少ないと思うけれど、αケンタウルスの例も有る事だし、BETAが設計図を温存してないとは限らないわ」
霞「現状では人類が水中戦に力を入れてませんから、必要性を感じていないだけかも知れません」
夕「可能性を言えば切りがないと思うでしょうけど、本質的に人類は陸上生物で、環境適応能力ではBETAに劣っているから、水中を主戦場にするのは危険なのよ」
霞「お互いが注力した場合の効率が違います。得意不得意の問題ですね」
純「じゃあ、『政戦両略の斯衛』に新しい水中兵器は出てこないの?」
夕「そうねぇ。以前作者が理想郷の感想掲示板にちらっと書いたのでは、潜水艦にムアコックレヒテ機関を積んで陽動をさせるって案が有ったわね」
霞「沿岸ハイヴ攻略戦に置いて、戦略的な価値があると思われます」
夕「このくらいのメリットが見込めれば、相応のリスクを負う意味もあるのよ」
霞「大型の潜水艦を開発・建造する必要があるでしょうが、戦略効果を鑑みれば費用対効果を満たせます」
純「そう言えば、ハイヴ突入機の武御雷関連には大盤振る舞いだよね~」
夕「母艦級の炙り出しも、どれだけの砲弾が必要か解かったもんじゃないわ」
霞「そういう事情なので、戦術レベルの優位性の為に予算を回す余裕はありません」
純「うぅ、世知辛いよ~」




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