27.記憶
長い付き合いだったのだろうかと、ふと思い出す。それがまるで年老いた老人のようで、嫌だった。すべて過去の思い出になってしまったようで、二度と、会えないようで。
けれど人とは単純なもので、記憶は反芻しなければどんどん消えていく。
それこそ、過去へ。それが、何よりも恐ろしくて。
それからは、思い出すようにした。それは、決して懐かしむためではなく。刻み込むために。約束を。誓い合った日々を。共に駆けたあの頃、確かに唯一無二の親友だったあいつからの頼みを、決して忘れぬように。守れるように。
喫茶店のマスターなんて安穏とした生き方で、前線から退いて、こんな姿をあいつが見たら何て言うだろうかなんて、偶に考える。似合わないと、笑うだろうか。
「波児、お代わり」
「あ、俺も俺もー!」
「…お前らね、ツケを払ってから頼めよ」
俺の昔の姿なんて知らない若者が、笑いながらカップを差し出す。年若いバイトが笑いながらそれを受け取る。
そんな幸福の中を、お前とも過ごしてみたいと、今だって思っている。無理だろうと、半ば確信しながら。
それでも、今。あの時腕の中に居た赤ん坊がこんなにでかくなって一端の口を訊くなんて、お前はあの時想像しただろうか。「野蛮」の「蛮」だなんて、我ながらとんでもない名前を付けたと思うけれど、止めなかったお前も同罪で。その名の通りに育ってしまっても、決して俺のせいだけじゃない。
そんな言い訳を、お前にしてみたいと。そんな風に、ふと、思う。
忘れない。絶対に。
たとえ時の流れがこの身体を蝕んでも、お前が居た証が、今も俺の目の前にはあるから。
拍手ありがとうございました!
お礼は常時5種用意してあります。
一言あればどうぞ(名前なし・拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと
1000
文字。お名前は未記入可。