「金太郎、力では斬れぬ、握る手に力が入りすぎだ。何故にそう力で押し切ろうとするのだ」

ここ最近何度も何度も師に言われ続けた言葉で、そして今日もまた言われた言葉だ。

だが言われる側の金太郎には、自分の何がいけないのか得心がいかなかった。

同じ年の頃の者よりも小柄な自分には、膂力が全くもって足りない。

ただでさえそれなのに、これ以上力を抜けば斬るなどとても不可能だと思う。

師は大人で、十二分に膂力もある。だからこそ大して力を入れずとも斬れるのではないか。

道場を出た金太郎はこんな気持ちのまますぐに帰る気にもなれず、悶々と考え込んで歩いていた。

離れ屋敷の板塀沿いにとぼとぼと歩くうちに、いつの間にか一本松のある畑の見える処まで辿り着いた。

いや、無意識に向かっていたのかもしれない。

ここは金太郎の家に出入りする下男の遠縁の者が所有する畑で、その縁でたまに遊びに来ていた場所だ。

そしていつの頃からか一人で剣の稽古をする時にもここへ通うようになっていた。

ここは家からも少し距離があり、傍に森もあって薄ら寂しく、あまり人通りもない。

剣術の練習にも考え事にも格好の場所だった。


人影の無いことを確認した金太郎は、手にした荷物を松の根元に置くと腰に差した刀を抜いた。

午後の翳り始めた日差しを受け、刃が白い光を返す。

師の言う『力では斬れぬ』という言葉は、未だ金太郎の頭の中をグルグルと駆け巡っていた。

それを振り払いたいのだろうか。何度も頭を横に振ると、やぁ!と声を上げて刀を振るった。

師や兄弟子が軽々と木刀を振るう姿が目に浮かぶ。

それは力強く、堂々として見えた。

溜息一つ。

「…力では斬れぬ」と師の言葉を反復してみる。

だが、その言葉とは相反して柄を握る手には力が篭る。

金太郎は眉を寄せると、我武者羅に刀を振り始めた。







勢いと思い込みで書き留めた、非公開長編駄文のネタメモ。w

凌霜隊の山脇金太郎が主役だったりします。

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