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 以下に小話をひとつ公開しておきますのでよろしければご覧ください
 ブログの20*09より未来の話です(要するにもうデキてます)
堺サン視点 夏の風物詩話
前の夏の拍手の団扇話の続きのようなもの
だいぶ絆されてきている堺サン

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【泳ぐ金魚と鳴る硝子、茹だる夏日の小さな幸せ】


 今日は毎年毎年、やたらに暑い夏の中でも特別に暑い日で、こんな日にも押しかけてくる
世良は夕食後に水を浴びたあと、ひたすらに団扇を動かしている。こちらもさすがに暑いの
で、同じくシャワーでも浴びるかと立ちあがったところで、世良に声をかけられた。

「あ、忘れてた、堺サン、今日オレおみやげあるんです」

 言いながら満面の笑みになった世良は、そそくさと部屋の隅に置かれたカバンに手を伸ば
す。土産と言われても、世良がどこかに行ったという話は聞かないし、そもそもそんな時間
はないはずだった。不本意ながら、毎度手土産を持って来られても逆に困る程度に、世良は
この家に入り浸っているので、いまさらそういったものを出してくるとも考えにくい。一体
何のつもりだろう、と思いながらカバンを探る背中を見るともなしに見ていると、小さな箱
をとり出した世良はこちらに向き直り、コレ、堺サンに、と言って手渡してきた。

「こないだ、若手みんなで商店街でボランティアやったんすよ、そのときお礼にって、ほら、
 ちょっと有名な風鈴屋さんあるじゃないスか」
「ああ、あの江戸風鈴の店か」
「そうッス! あそこの人がわざわざサッカーボールの模様のヤツ作ってくれて。オレ寮の
 窓に飾ってるんですけど、音ちょーキレイなんすよ! で、堺さんにもって思って、こな
 いだ行って買って来たんス」

 渡された小箱のふたを開ける。柔らかな半紙に包まれたつるりと丸いものが、梱包材にし
っかりと守られて埋まっていた。とり出して半紙を剥いてみると、小さな丸いガラスの中を、
黒と赤の金魚が数匹泳いでいる。達者な筆さばきで描かれたその柄はいかにも涼しげで、夏
にはぴったりだ。意外と趣味悪くないなコイツ、と思ってしまったことは言わないでおこう。

「同じサッカーボールのをお願いしようかと思ったんすけど、オレだけじゃなくて椿とかと
 もお揃いになっちゃうじゃないっすか、だからその柄のにしたんスけど……ダメでした?」
「……いや、いいんじゃねえの」
「よかった、何かこの柄なら堺サンちに合いそうな気がしたんすよね、うちのチームの色だ
 し、涼しそーだし」
「ああ」
「あと、えーと、ほら、こないだ堺サン、オレにコレくれたじゃないっスか、そのお返しっ
 ていうか……」

 そう言いながら世良は手に持った団扇を指差して、へらりと笑う。少し前に世良にやった
市松模様の団扇。世良の手もとで小刻みに動いたそれが、僅かな風をこちらに運んでくる。
汗をかいた身体には、その生温い風も小気味よく感じられた。

 箱の中からとり出した風鈴を軽く揺らしてみる。柔らかく澄んだ美しい音がリビングに響
いて、涼やかな気分になった。思わず笑みがこぼれる。何とはなしに、世良の風呂上がりで
まだ濡れている髪にふれた。そのまま少し撫でていると、その手をとられて甲に軽くキスを
される。世良の眼が少し熱を帯びた。

「……世良」
「なんスか?」
「ありがとな」

 言うと、世良はもともと大きい眼をさらに大きく見開いて、それから思いっきり破顔した。
ぎゅっ、と抱きしめてくる身体が熱い。手に持ったままの風鈴を落とさないように気をつけ
ながら、暑いだろ、と文句を言えば、スイマセン、もうちょっと暑くなって下さい、なんて
返してくるので、ペシリ、と頭を叩いてやった。抱きつかれたまま、世良の背中で風鈴を鳴
らす。この音で暑いのもしばらく我慢できそうな気になったから、世良を引きはがすことは
しないまま、しばらく過ごした。まとわりつく世良の体温が暑苦しくてたまらないのに、何
となく幸せだなんて感じるのは多分、今日がとびきり暑くて、俺の頭のほうも茹だっている
からで、それ以外の理由なんてない……と、思う。

 ……硝子の中、鮮やかな金魚がゆるりと泳ぐ。リビングに響くのは、澄んだ夏の音。こう
いうのも悪くない、そう思えた夏の日の話。






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