THANKS FOR CLAP!
星見日和
「なぁ、千鶴。星見にいかねぇか?」
「え?」
あまりに唐突な藤堂の言葉に、千鶴が瞬間ポカンと間の抜けた表情を浮かべる。
洗い物の手を止めて改めて向かいあえば、穏やかな光を瞳に宿らせた藤堂が柔らかく微笑んだ。
「此処に来て以来、そんなゆっくりした事もないだろ? たまには、な?」
「それはいいけど……」
「よっし、じゃあ決まり! 行こうぜ」
「え、洗い物……」
「そんなの後、後。善は急げって言うだろ」
千鶴の手を取って、グイグイと引っ張ってゆく。
チラリと重ねて置かれた食器に視線を送るも、やがて諦めたように溜め息を吐く。藤堂の言う通り、後でも洗う事は出来るのだから。
食器に向けていた視線を前方で手を引く藤堂の背中に戻すと、藤堂に置いて行かれないように歩みを速めた。
◆
「広いから見上げるには絶好なんだぜ、ここ」
そう言って、藤堂が歩みを止めた。
家からそう遠くない場所にポッカリと空いた空間は確かに空を遮る物はなく、月明かりが煌々と草木を照らしている。
見上げた先、大きな暗幕を引いた空で無数の星がキラキラと輝いて、千鶴の目を奪う。
「うわぁ……」
「千鶴、転がった方が見やすいと思う」
「え?」
下の方から聞こえてきた声に、千鶴が視線を空から地へと向ける。
一面に広がる草っぱらの上に寝っ転がって、藤堂が千鶴を見上げて笑う。藤堂に倣って千鶴もゴロリと草っぱらに寝転がった。
大きく息を吸い込めば、草の匂いが胸一杯に広がる。
夜露に濡れた草がジワリと着物を濡らしてゆくその感覚さえ、蒸すような気候の中では気持ちが良い。
「空見上げたのなんて、久しぶり……」
何時だって空は頭上に広がっていたのに、それを見上げる余裕さえも無くしていたようだ。
改めて思い直せば、かなり長い間見上げる事をしていなかったように記憶している。
「どうして急に星を見ようだなんて思ったの?」
夜空を見上げたまま、千鶴が問う。
横で藤堂が微かに動く気配がした。
「んー……ほら、俺羅刹で夜に活動してたろ?」
「……うん」
「あんまゆっくり見上げてる暇はなかったんだけど、夏とか星がすっげぇ綺麗でさ。いつか、千鶴と見てぇなって思ってたんだ」
「……私と?」
「あぁ。他の誰でもなく――千鶴と見たいなって思ってたんだ」
太陽の下で暮らす生活から一転、月の下で暮らす生活になり、たまたま見上げた満点の星空を目にした時に頭をよぎったのは、仲の良かった原田でも永倉でもなく今、隣に寝転ぶ少女の姿で。
その時から、何時か共に星を見上げたいと心の片隅でずっと願っていた。
「……有難う、平助君」
「どういたしまして」
藤堂へ視線を向けて、千鶴がフワリと微笑んだ。同じように千鶴へと視線を向けた藤堂も笑顔を浮かべる。
微かな風に揺らされた草がサワサワと音を立てる。
その囁くような音に包まれながら、何時までも二人、空を見上げていた。
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藤堂×千鶴。
等身大で可愛い恋愛しているイメージです。
拍手有難う御座いました!
現在のお礼は藤堂×千鶴、土千+大鳥の二種類となっております。