何のために生まれてきたのか。
問うことに疲れたから、私は答えてくれぬ者を消してしまおうと思った。

神ならば、答えを知っていて当たり前だろう?
なぜ、知らぬ、分からぬなどと言うのだ。


なぜ、真実を知っている者を前にして迷わねばならぬのだ。


導があると思うから、人は惑う。
道がすでに敷かれていると思うから、人は答えに辿りつこうと迷いだす。


一体、どこに導はあった?
一体、我が前に道はあったか?


神ですらも迷っているではないか。
あれは、神ではない。
ただ、人が異能の力を与えられてしまっただけのもの。


ならば、我らと同じ人ではないか。
なぜ跪かねばならぬ?
なぜ従わねばならぬ?
あの方が望んでいるのは、ただ我らの知らぬ過去世の再現ではないか。


我らが生きているのは現在なのだ。
過去など、二度と蘇りはせぬ。
なぜそれをあの方は気づかぬのだ。
なぜ、私の中に過去の人の面影を探そうなどとするのだ。
私につがいを創って望みを逸らせたのは貴女ではないか。
なぜ、気づかぬのだ。
なぜ、私を苦しめ続けるのだ。


貴女の探す人物が、私であったらよかったのに。
確信さえあれば、私は貴女に定められた運命を覆し、
いくらでも貴女の想いに応えることが出来たのに。
だってそうなのでしょう?
貴女の想う人は、貴女を創造された方。
ならば、貴女の創った運命を変えることとて容易いはず。
私にそれが出来ぬというのなら、私は貴女の捜し求める者ではなかったということ。
私は貴女の血を引く者らしく、己を創造した者への愛に苦しめられ続けるしかない。


私は貴女を裏切ります。
貴女の敷いた道は、私を迷わせるばかり。
当たり前でしょう?
私の答えを握る貴女が迷い続けているのですから。


だから、私は考えたのです。


貴女が、消滅することを恐れて世界をこれ以上広げられないというのなら、
私が神となり、数多の魂の受け皿を造ろうと。
一人ではとても貴女ほどの力は持ちえないから、私の鎹となる者と共に、
私は貴女の役目を背負いましょう。


前世で創造された数多の魂たちに生きる場所を与え、身体を与え、
そして、死を与え。


死。


それは、私たちの身体を造る技術が未熟なために起こる絶対的な運命。
だが、その死こそが永遠を紡ぎだす鍵になる。
生と死は循環しながら時を生み出し、
やがて貴女の魂を貴女の捜し求める方の元へ届けてくれることでしょう。


私は貴女を裏切ります。
貴女の怒りを、憎しみを、悲しみを、空しさを、全てぶつけられる覚悟は出来ています。
愛しむべき鎹を裏切っていることも何もかも、
全て飲み込んで生きていく覚悟は出来ています。
だから、貴女はせめてこの願いだけは叶えなければならないのです。


貴女が、捜し求める方に廻りあえますように。















維斗


この子は、僕のつがいとなる者。
僕の、生きる鎹となる者。
この子無くしては、僕は生きる意味を見失う。
そう、運命づけられた相手。
愛しているとか、好きだとか、そんなことは知らなくても、
幼い頃から大切にしてきた。


好きなんだ。
これほど新鮮に誰かを好きだと思ったことはない。
これほど真っ直ぐに、誰かに好かれたいと思ったことはない。
彼が何を思って生きてきたのか、僕は分かりたくもない。
だけど、彼は一つ自分に嘘をついた。
彼が覚悟を決めた時に望んだことは、一つだけじゃなかった。
手を組み合わせ、神としての力を信じてもいないくせに貴女に願ったあの時。
彼の脳裏にいたのは貴女と、もう一人。


彼はずっと、彼女を愛していないと思っていた。
彼はずっと、彼女を苦しめ続けていると思っていた。
どんなに子を生そうと、
己の彼女への気持ちは贖罪にのみ支えられているのだと思っていた。


死がリセットする機会をくれたのだ。
あの罪にまみれた身体を離れて、ようやく僕は永い時の呪縛から逃れることが出来た。
いや、彼自身はまだ自分の気持ちを認めようとはしていないかもしれない。
認めてしまえば、彼は己の罪を償う気力を無くしてしまうかもしれない。
それでも、僕は彼女と出会えたことに感謝しているんだ。
貴女の敷いてくれた道に感謝しているんだ。
例え僕でいられる時間が短くても、
彼女を心から好きだと思う僕が彼の中にいれば、
いつか彼も気づくかもしれない。
一つ、罪悪感から救われるかもしれない。


この気持ちは、大切に育てよう。
そのために、僕はきっと生まれたのだろうから。










ついでに一言あればどうぞ!(拍手だけでも送れます)
あと1000文字。