『やさしいひと』





「貴方様は優しい方だと思っていましたのに。」


何度も聞いた同じ台詞。


いつもその度に思った。


なんだ、それ。


どんな勝手な想像だ。


勝手な姿を押し付けるな。


聞くたびに胸が冷えた。


お前らが勝手に思っていただけだろ。





「生憎性分ですからね。」





胸のうちは隠してにっこりと笑う。





「また縁があればお会いすることもあるでしょうね。」





どれだけ丁寧にことをすすめていても


最後には縋られた。


そのたびに心がすうっと冷えていくのを感じていた。





オレの心の中なんて知らないくせに。





もううんざりだと思いながら繰り返して、


オレはどんどん冷めていった。








なぜかそんな記憶がオレの中に蘇る。


苦い感情とともに。





そんなことを思い出したからだろうか。


オレは目の前の愛しいひとに問いかける。





祈るような気持ちで。





「オレは優しいと思う?」





少しの恐れをこめて。


でもそれを必死に隠してオレは問う。





「うん、優しいよ。」





「どうして?」





あっさりと常と変わらぬ微笑みで


そう返されてしまい、オレは震えそうになる声で


理由を問うた。





「どんなときでもヒノエくんが持ってる優しさは曇らないもの。」





そしてそっと望美はオレの顔をその両手で包み込む。





「・・・ちゃんと知ってるよ、私は。」





だから。





「怖がらないで。」





そう言って望美はオレに口付けた。


唇が離れる瞬間にたまらなくなって望美をきつく抱きしめる。





「・・・かなわないね、お前には。」





それだけを呟くのがやっとで。


泣いてしまいそうな自分を押さえつけるように


オレは望美を抱きしめる。





嬉しくて。


愛しくて。








冷めた心はとうに熱されていたけれど。








欠けた想いすら君はどんどん埋めていく。








ああ、もう。


完敗だ。















拍手ありがとうございました!


またおいでくださいませ。





『かぐや姫の夜』


02.うんざりする求愛


こちらよりお借りしました。







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