平和町アニマル探偵団 バレンタインの悲劇!!-

● 平和町アニマル探偵団 --- バレンタインの悲劇!! ●

 さわやかな日曜日。

 今日、ボクとミカちゃんはドッグランに来てる。
 あ、ルイズ見つけた。隣にはモールもいる。


「ルイズ、モール!!おはよう」

 ミカちゃんにリードを外してもらって二人に駆け寄ると、モールの様子がおかしいことにすぐに気付いた。

 なんだかしょんぼりしてる。


「ああタルト、おはよう」

 ルイズがボクにあいさつしてくれた。するとモールもボクに気付いてあいさつしてくれたんだけど……。

「おはようタルト……。今日はいい天気でよかったね…………」

 な、なんだかモールの周りにもやもやが浮かんでいるように見えるよ?

「ど、どうしたのモール」
「なんでもないよ……」

 ははは、と笑ってるけど、どこか力がない。

 ボクはルイズを少し離れたところに連れ出して、事情を訊ねてみた。


「モール、どうしちゃったの?」
「うーん、それがなぁ」

 ルイズは少し困ったように訳を話してくれた。

「シェリー、知っているだろう?」
「うん。モールのお友達だよね」

 シェリーちゃん。
 クリーム色の毛並みがきれいな、ミニチュアダックスの女の子。モールのお友達だ。
 何回かこのドッグランで会ったことがある。
 明るくて、とっても優しい女の子だ。

「シェリーちゃんがどうかしたの?もしかして、ケンカ?」
「いや、ケンカじゃないんだ。今月の14日、何の日だったか覚えているか?」

 先週の14日。忘れるわけない。すっごく嬉しい日だったんだから。

「バレンタイン?」

 ボクが答えると、ルイズは重々しく頷いた。

 そう、バレンタインデー。
 なんとミカちゃんがボクのためにクッキーを作ってくれたんだ!!
 本当はチョコレートをあげるみたいなんだけど、ボクたち犬はチョコレートが食べられない。だから、ミカちゃんはボクでも食べられるクッキーを作ってくれたんだ。

 その話をルイズにすると、ルイズは「よかったな」とうれしそうに笑ってくれた。
 でも、すぐに暗い表情になると、モールの身に起こった大事件を話し始めた。

「14日に、モールはシェリーからバレンタインのクッキーをもらう約束をしていたんだ」
「そうなんだ。でも、なんでモールはあんなに落ち込んでるの?」
「それが……もらえなかったらしいんだ」
「えっ?もらえなかったの?」
「それどころか、シェリーはドッグランにも来なかったらしい」
「うわぁ……」

 ボクが思わずモールを見ると、モールは遠くを見てため息をついていた。
 か、かわいそう……。

「でも、シェリーちゃんは約束を破るような子じゃないよね」

 ボクが不思議そうに言うと、ルイズも渋い顔をして頷いた。

「そうなんだ。それがおれも不思議でな」


 そんな話をしていると、ドッグランの入口が騒がしくなった。
 入口を見てみると、話題の中心、シェリーちゃんが入ってきた。
 わぁ、ナイスタイミング!!

 シェリーちゃんに話を聞こうと近寄っていくと……。


「えーっ、バレンタイン、誰かにあげたの?」

 シェリーちゃんと仲良しの女の子がはしゃぎながら話している。
 うーん、何だか入って行きづらい……。
 でも、バレンタインの話をしてるみたい。聞き耳を立ててみよう。

「ねぇ、誰にあげたの?」
「ふふ、内緒よ」
「えーっ、教えてよー」
「じゃあ少しだけ。とってもかわいい男の子よ」
「うーん、誰だろう……」


 え……?
 シェリーちゃん、バレンタインに誰かにクッキーあげたの?でも、モールはもらっていないはずだよね。
 まさか、シェリーちゃん、好きな子がいるの……?

 シェリーちゃんの話に夢中になっていたボクは、背後に忍び寄る影に気づいていなかった。


「……バレンタインにクッキーあげた……?」
「きゃーーーーっ!!」

 びびび、びっくりした……。
 ドキドキしながら振り返ると、そこにいたのはさらにどんよりしているモール。

 なんだ、モールだったのか、びっくりしたなぁ………………って、モール!?

「モ、モ、モール、今の話聞いてたの?」
「聞いてた……」

 そう呟いて、モールはうつむいてしまった。

「モール……」
「………………だ……」
「え?」

 よく聞き取れなくて聞き返すと、モールは勢いよく顔を上げた。

「その幸運なやつは一体誰なんだーっ!!」
「わぁぁぁぁ!!」

 いきなり大声を出したモールに驚いて、ボクはぺたんと座りこんでしまった。
 そんなボクの両肩をがしっと掴んで、モールはがっくんがっくんボクを揺さぶりながら怒りをぶちまけている。

「ぼくももらえなかったのに、う、う、うらやましすぎるーーーーっ」
「あ、あ、頭ががっくんがっくんするーーーーっ」
「よ、よし!!聞いてくる!!」

 思う存分ボクをシャッフルして満足したのか、モールは鼻息荒くシェリーちゃんのところに走って行こうとした。
 わぁぁ、さすがにそれはダメだと思うよ!!
 
「ままま、待ってよ、ボクが聞いてくる!!」
「タルトが?」
「うん。だってモール、聞きづらいでしょ?」
「確かに……。じゃあ、頼んでもいい?」
「うん!!」

 よかった!!なんとかモールを止められた!!




 それから、ドッグランのみんなにさりげなく聞いてみたけど、大したことは分からなかった。
 シェリーちゃんにも聞いてみたけど、笑ってはぐらかされちゃった。

 しょんぼりしてモールに謝ると、モールは力なく笑って「いいよ」と言ってくれた。


 ……でも、気になるなぁ。シェリーちゃんは誰にクッキーあげたんだろう?




「……で、あまりにも気になるから、まだ調べているわけか」


 その二日後、ボクはルイズの家にこっそり来ていた。

「だって、あれじゃあんまりモールがかわいそうで……」
「まぁな」
「ねぇルイズ、シェリーちゃんの家、知ってる?」
「知ってることは知っているが……行くつもりなのか?」
「ご近所さんに話を聞いてみようと思って」

 意気込んで言うボクに、ルイズはため息をついた。

「仕方ない、乗りかかった船だ。おれも行く」
「えっ、いいの?」
「ああ」

 そう言って、ルイズは柵を軽々と飛び越えた。
 ご主人様に怒られないか心配だったけど、今はまだ学校だから大丈夫だって。よかった、心強いや!!



 それからボクとルイズでシェリーちゃんのご近所の犬たちに聞いて回った。
 すると、一匹のゴールデンレトリバーが、気になることを言っていたんだ。

「シェリーちゃんがクッキーあげた相手は知らないけど、最近この辺りで野良犬の集団ならよく見るよ。その中にいるんじゃないか?」

 野良犬の集団……?
 ボクとルイズは顔を見合わせた。ルイズは不思議そうにしていたから、知らなかったみたい。ボクもそんな話は初耳だなぁ。


 結局気になった話は野良犬たちのことだけで、シェリーちゃんがクッキーをあげた相手は分からなかった。
 そろそろルイズも帰らなくちゃいけない時間になって、ボク達は重い足取りでルイズの家に向かった。


 ルイズの家の近くにある公園に差しかかったとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「こんにちは。今日も元気ね」
「こんにちは、シェリーお姉ちゃん!!」


 ボクとルイズは急いでこっそりと公園の入り口から中を覗いた。すると、そこにいたのは……。

「イチ!?」

 子猫のイチと、散歩中のシェリーちゃん。

「タルト、知り合いなのか?」
「うん、そうなんだけど……」

 戸惑っているボク達をよそに、二匹は仲よさそうに話してる。

「シェリーお姉ちゃん、この前はクッキーありがとう!! とってもおいしかったよ!!」
「そう、よかったわ。ミィとフゥは元気?」
「うん、元気だよ。今度一緒に遊ぼうね!!」
「えぇ、約束ね」


 ん……?今の話は、もしかして……。

「シェリーちゃんがクッキーをあげたのは、イチたち?」

 シェリーちゃんは、「とってもかわいい男の子」にあげたって言ってた。
 確かに、とってもかわいい男の子だけど……。


「イチくんたちにしかあげてないから、みんなには内緒よ?」
「うん、内緒ね!!」


 ……決定的。
 なぁんだ、シェリーちゃんがクッキーをあげたのは、イチたちだったのか。

「……帰るか、タルト」
「そうだね……」

 ボクたちはなんだかどっと疲れて、それぞれ家に帰った。


 そして、その次の日曜日。
 ボクとルイズはモールに事情を話した。
 するとモールは……。

「な、な、何だって!? 子猫!?」
「うん、そう。生後半年の子猫」
「なんてうらやましいんだーっ」

 ……って嫉妬してた。
 なんか、悲しいよ、モール……。まだ子供なんだから、大目に見てあげなよ……。


 さわやかなはずの日曜日。
 ボクとルイズの心はとっても微妙だった……。
おわり   
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