ただ隣で笑って(翼美咲)




どこからか吹き込む温い風に目が覚めた。
ゆっくりと重い瞼をこじ開ければ真っ白い天井が視界に飛び込んでくる。
空調の無機質な低い音が響く。

頭がずきりと痛い。
最近は知り合いでも体調が優れなさそうな人達が何人かいて、それでも自分は風邪なんて引く筈がないと高を括っていた。
けれどその考えは甘かったようで。
もっと気を付けていれば防げたかもしれないのにこの有様だ。

学校ではそろそろ授業が終わった頃だろうか。
何だか動くのも怠くて、でもずっと寝ているのも気が滅入りそうで。
意味もなく掛時計の秒針を目で追いながら考えを巡らせる。
眩暈がして、視界が回り出しそうな錯覚に襲われる。

ふと、がらりと部屋の扉が開く音に気が付いた。
音のした方向に目を向ければ見慣れた仲間達の姿がそこにあった。
特力のメンバーや知り合い達が見舞いに来てくれたようだった。

「美咲先輩っ、風邪大丈夫なん?」

蜜柑が不安げな表情を浮かべながら駆け寄ってくる。

「ああ蜜柑。大丈夫大丈夫。来てくれてありがとな」

心持ち気丈に振る舞って見せる。
可愛い後輩にこれ以上心配をかけさせるのは辛い。
けれど隣の幼馴染には容易に見透かされていたようで。

「嘘だな。大丈夫じゃないだろ」
「本当だって」
「無理すんなよお前らしくない。美咲がそんなんだと俺まで調子狂うだろ」

やっぱりこいつにはどんな嘘も通用しないなと思った。
あたしだって翼の事は何でも分かっているつもりでいた。

あたし達は物心がついた頃から一緒にいて。
翼はずっと変わらないでいる、幼ながらそう信じていた。
でも実際は成長する度知らない翼が増えていくのも感じていた。
どうして人は変わってしまうのだろうか。
変わっていくのが自然で、でもそれを受け止められない自分がいて。

隣に自分じゃない誰かがいるなどとは考えようともしなかった。
何処にも行かないで欲しかった。
それがただのあたしの我侭に過ぎないなんて分かっているけれど。
翼が隣にいれば他に何もいらないから。




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