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アンナ・マデリーナ
~A Lover's Concerto~




自分の街をよく知ろう

などというスローガンを掲げて行われた
白金高校の課外活動。

慎たちが卒業した後、
新しく受け持った生徒たちを連れて
久美子は今日百年山に来ていた。

地元の人たちの案内で、
山の中に作られた古い石碑などを見て回る。

通常歩いているだけでは、見過ごしてしまいそうな石も
実はその昔武士が置いた目印だったり
なかなか面白いものである・・・・

などと、白金生が感じるはずもなく、
生徒たちはめいめい好きなところに遊びに行ったりするので
それを見張るのに精一杯であった。

「くっそぉ~、あいつらめ・・・」

久美子は拳を握ってキョロキョロする。

【この先ケモノ道、危険!!】

と、書かれた標識を、
逆に面白がって走って行ってしまった俵たちを追いかけて
やってきたのはいいが
すっかり見失ってしまったのだった。

「ちっくしょぉ、あいつらめ、
何処に行きやがった・・・・。」

と、その時。

ピピピピピピ

久美子の携帯が鳴る。

画面に表示されたのは藤山の文字。

「あっ、もしもし、藤山先生?」

『山口先生?生徒たち、無事に見つかったわよ~』

「えーっ、そうなんですか?良かった。
じゃあ私も戻りま・・・・」

ブツッ

「あああああ!!!」

久美子が慌てて携帯の画面を見ると、
すでに真っ暗になっていた。

「そっか、さっき先生たちと電話かけまくったから
バッテリーなくなってしまったんだな・・・」

久美子は仕方なく携帯を赤いジャージのポケットにしまう。

「ま、生徒たちも見つかったってことだし、
帰るとするか」

久美子はそうつぶやいて、元の道を歩こうとした。

が・・・・。

「え・・・・・?」

久美子はタラーッと汗を流す。

来た道はケモノ道。

というか、道らしい道はなく、
すっかり迷ってしまったようだった。

しかも、追い打ちをかけるように
ごぉぉぉぉっと大きな音を立てて木々が揺れる。

これは、嵐の前触れといえるような風だった。

「・・・・・・・・・・・・・」

久美子は、頭が真っ白になる。

「・・・・・ま、別に知らない山っていうワケでもないし?
とりあえず、歩くとするか・・・・」

そう自分を奮い立たすが、
先ほどまでは木々の隙間から青い空が見えていたというのに、
もくもくと黒い雲まで立ち込めてきていた。

「よしっ!!こういう時は歌でも歌おう!
そうだ!こないだ藤山先生に教えてもらった歌がいいな。」

♪た~ららららた~~~♪
♪♪た、た~ら~たらららた~らら~♪♪

久美子は大声を張り上げる。

バサバサバサっ、

久美子の声(歌?)に驚いて鳥たちが舞い上がる。

そして、山はますます深くなるばかりだった。

久美子はみるみるうちに不安になる。

どんな大男たちにも、負けない久美子も自然には敵わない。

こんなとき思い出すのは、やはり沢田慎の事だった。

ちくしょー、沢田、何してやがる・・・
ってか、アイツも今日は学校か・・・・

などと、逆切れしたり、自分でツッコミを入れたりしてみる。

久美子はもう一度歌を口ずさむ。

『この曲はね、ラブソングなのよ』

藤山のそんな言葉を思い出す。

『ピアノの初歩的な教本に載ってるの。
バッハが誰でも簡単に弾けるラブソングを、
妻に贈るために作った曲なのよ』

こんな裏話を聞いてしまうと、
なんだか同じ曲でも愛おしく感じるのが不思議だ。

久美子はもう一度大声でその曲を口ずさむ。

そうして久美子は、茂みを両手で勢いよくかき分け足を踏み入れた。

が、その先にはあるはずの地面がなく。

なんと崖で、久美子は勢い余ってまっさかさまに崖の下に―――――!!!!



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