※以下はアナザーフリオとトランスティナのお話です。
 原作設定木っ端微塵なので、どんな二次創作もバッチコイ! という方のみスクロールドゾ。


■1■


「当たれ!」

 掛け声と共に引き絞った弦を離せば、光の尾を引く矢が弾丸のごとく飛び出した。
 フリオニールの放った光の矢は、寸分たがわず狙い定めたモンスターを射抜き、それは断末魔と共に空中に溶けて消える。が、その魔物を隠れ蓑としていた新手が同時に飛び出してきて、フリオニールに鋭い牙を振り上げた。

「……ふっ!」

 短く息を吐き体を回転させ、飛び掛ってきた魔物に強弓を叩きつける。まさか弓で叩かれるとは思っていなかったのか、魔物は身をかわす間もなく顔面を強打され、のけぞった。

「はぁっ!」

 叩き付けた弓を手際よく担ぎなおし、フリオニールは腰の剣を抜く。そして回転の勢いそのままに、なぎ払う。返り血が左頬にかかったが、拭っている暇などない。
 背後に生じた二つの殺気に、振り向きながら剣を向ける。
 そこには血走った目をした二体の魔物。
 が。

『メルトン』

 空気を震わせる小さな声がしたかと思えば、フリオニールの目の前に巨大な火球が振り落とされた。二体の魔物は直撃を受け、熱気をマントで遮るフリオニールの目には消し炭となっていく様だけが見えた。
 魔物を霧散させた瞬間、巨大な火球も消えうせる。フリオニールは剣を鞘に収めたあと、小さくため息をついて上空を見上げた。

「ティナ」

 呼びかけると、あたりの空気が優しく揺れたような気がした。
 ゆっくりと降りてくるのは、緋色の幻獣だ。手足の爪はするどく尖り、切れ長の瞳はアメジストを埋め込んだような怜悧な光を帯びている。
 だが、ふわりと重力を感じさせない身のこなしでフリオニールの首に己自身を絡ませるように抱きついた幻獣は、打って変わって幼い少女のような笑顔を見せた。
 フリオニールはもう一度ため息をつき、幻獣の、ティナの長い髪を撫でてやる。

「戦闘の最中に離れるなと言っているだろう。何度言ったらわかるんだ?」
『状況の把握に行ったのよ。最後は役に立ったでしょう?』

 怒らないでと、ティナはフリオニールの右手を掴み頬ずりをする。フリオニールはそんなティナを険しい顔で見ていたが、やがて根負けしたのか頬ずりを続けるティナの頬を撫でてやった。

『怪我してない?』
「こっちの台詞だ。君は俺を治療できても、俺は幻獣である君を治す術を持っていない」
『大丈夫よ。……フリオニール、血がついてる』

 ティナはフリオニールの背後から身を乗り出し、左頬にこびりつく赤黒い血の塊を指した。それから、大きく口を開けて噛み付くようにフリオニールの頬を――

「ちょっと待て」

 ――舐めようとしたところを、自分の顔ほどもある大きな手で顔面ごと押しのけられてしまう。不満そうに指に噛み付けば、フリオニールも眉間にシワを寄せていた。

「俺の血じゃない。魔物の血だ。こんなもの舐めるな」
『なんだ、そうだったの?』

 フリオニールが自分で頬を拭うのを惜しそうに見ていたティナだったが、その言葉にこくんと頷き、ぎゅっとフリオニールの首に腕をからめた。

『さっきあたりの様子も見てきたの。他に魔物の気配はないわ』
「そうか……。なら、先を急ごう。そろそろ野宿も飽きた」
『最近寒くなってきたみたいだものね。……人間は大変ね』

 幻獣ゆえ外気の変化に強いティナは、歩き出したフリオニールの左肩に腰かけて、体を安定させるように身を縮こまらせた。左頬をフリオニールの右頬に擦り付けて、にこりと笑う。無垢と妖艶を同居させたその表情にフリオニールはわずかに視線を向けるが、すぐに前に向き直った。

「下手な毛皮などより暖かいな。重さもないし」
『便利でしょ?』
「……ああ、この上ないパートナーだ」

 くすくすと笑うティナだが、フリオニールはにこりともしない。



 強大な魔力を持った伝説の幻獣と、あらゆる武器を使いこなす銀髪の青年。
 ふたりの旅の目的は、誰も知らない。


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ミルクポットとハニートースト管理人:HOLY



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