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原作沿いトリップ・お祭り番外編



いつものようにアジトにいると、パタパタという聞き覚えのある音が耳に届いた。
それは小南が飛ばす、紙で出来た蝶の音。
ソファーに座って本を読んでいた私は、一旦本を置いて辺りを確認しながらふらっと廊下の方へ歩いていった。

「……小南?どこ?」

確かに聞こえたはずなのに、蝶の姿も小南の姿もない。
廊下に出たものの小南を見付けることが出来なかった私は、しょんぼりしながらリビングへ戻った。
さっきまで座っていたソファーに近付いていって、どうしようかと考えていると再びパタパタと音が聞こえてくる。

「この部屋にいる……?」

きょろきょろと辺りを確認して、私はキッチンの隅で隠れるように飛ぶ小南の蝶をやっと見付けることが出来た。
その蝶をそっと両手で包み込むと、蝶は一枚の紙へゆっくり戻っていく。
私はそれを黙って見詰めて、再び廊下に出た。

蝶に描かれていたのは、アジトの簡単な見取り図。
そこに小さな丸と矢印が載っていたから、小南が私に「来て」と言っているんだと思った。
どうしたんだろうと思いながら急いでそこへ向かうと、私の持っていた紙がふわふわと宙を舞う。
それを黙って眺めていると、沢山の紙が現れあっという間に小南の姿になった。

「どうしたの?」

久しぶりに会った友達のように、私は笑顔で近付く。
よく見れば小南の手元には綺麗な浴衣と帯があって、直ぐに私は首を傾げた。

「これ……何?」
「浴衣よ」
「それは、分かるけど……」
「貴女が着るの。一人で着れる?」
「え?」

言ってる意味が分からなくて、私は小南と浴衣を交互に見た。
これが浴衣だってことは、見れば分かる。分かるけど……私が着るってどういうこと?
小南が差し出す浴衣を、私は受け取らずに再び首を傾げる。

「どういう意味?っていうか、私一人で着れないし……」
「この近くでお祭りがあるの」
「そう……なんだ」
「それでね、貴女に行ってきて欲しいの」
「……は」

私はぱちぱちと瞬きをしながら、くすっと笑う小南を見た。
近くにあった棚に浴衣を置いて早く早くと私を駆り立てる小南に、私は戸惑いながらも服を脱ぐ。

「えっと……あの」
「お金も用意してあるの。沢山は用意出来なかったけど、好きなものを買って楽しんできて」
「う、うん」
「今日は皆アジトにいるわ。任務もバイトも、休むようにと言ってある」
「うん……って、え?」

下着姿になった私は浴衣へ手を通しながら小南の話へ耳を傾けた。
今日はこの近くでお祭りがある。そこに浴衣を着て、行ってくる。お金だって用意してある。
そこまでは何となく理解出来たけど、皆がアジトにいるっていうのは……つまり。

「皆で行くの?」
「ううん、誰か一人。貴女が選ぶのよ」
「は……選ぶって、え!?」

浴衣を着たメンバーが、脳裏に過ぎる。
どの人と行ったって、それはきっと楽しくて凄くときめくものだ。
暁の人と浴衣を着てお祭りに行くなんて、普通に生活していたら出来ないことだから。

「ちょっと、え……皆休みなんだよね?」
「そうね、でも皆で行くのは目立つし……貴女が一人、選んで」
「それって誰でもいいの?小南でも、長門でも、暁の人なら誰でも、」
「いいわ。それぞれの浴衣はあの棚の上にあるから」

私の浴衣をきゅっと整え、小南が棚の上にある浴衣を指差す。
それをぱちぱちと瞬きしながら眺めて、私は両手をゆっくり横に広げた。
小南が帯を巻いてくれる中、ふとあることに気付く。

「あそこにある浴衣、足りないよね?」
「数人のメンバーにはもう渡してあるの。受け取らないメンバーがいたから、その人達には貴女が渡して」
「え」
「サソリやデイダラは、しょうがないなって言って受け取ってたから……もう着てるんじゃないかしら」
「……は」
「飛段は自分で着れなさそうだから、角都に頼んでおいたわ」
「角都は?」
「ん……角都は受け取らなかったから、貴女が渡して。鬼鮫とイタチも受け取らなかったから、そこから持っていって」
「ゼツとか……トビとか」
「あの二人もそうね、あまり乗り気じゃなかったから……そこから持っていって」

って、乗り気じゃない人いるんだ?
ゼツとトビはあまり乗り気じゃなかったって小南は言ったけど、それって結局受け取らなかった人皆そういうことじゃんか。
サソリとデイダラだって、きっと乗り気ではなくって……それでも自分が誘われると信じているから浴衣を受け取ってるだけで。

「あの……私、行こうって誘っても断られるパターンあるよね?」
「大丈夫よ、皆喜んで行くわ」
「ペインも?長門も行けるの?小南は?」
「私と行ってどうするの?……長門は、ペインとしては浴衣を受け取っていたけど……本人は受け取っていないわ」

それって、誰選んでも滅茶苦茶断られる感満載なんだけど。
浴衣を着せてもらって、髪や化粧までしてもらいながら、私は顔を引き攣らせた。

「私、断られたら凄いへこみそう……」
「大丈夫、誰も断らないから」
「それ、嫌でも絶対行くってこと?」
「そうね」
「……それも何か、なぁ」

顔を引き攣らせたままの私に、最後の仕上げとして小南が紅を塗ってくれる。
頬に少しの紅と、唇へ。
そして「ちゃんと笑顔で」と言う小南を見ながら、私は自分の唇を擦り合わせた。

「ありがとう……私、似合ってる?」
「ええ」

にこりと笑う小南を見て、こんなこと最初で最後かもしれないな、と私は思う。
綺麗な浴衣を着て髪までセットして、そして暁の人とお祭りに行くなんて。
私は小南にもらったお金を巾着にしまって、棚の上に置かれたメンバーの浴衣を見た。
一緒に行きたい人の浴衣は、えっと……。

「……じゃあ、行ってくるね」
「ええ、楽しんできて」

私は小さく手を振って、その場を後にした。



◎ 君に朝が降る・お祭り番外編は、鬼鮫・トビ・ゼツ・デイダラ・サソリ・角都の六種類です



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