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【Wonderful brother】
(SPN)


 熱を出した。
 理由は風邪かもしれないし別の理由かもしれない。
 熱を出した本人はそう思ったのだが、弟はパン一で布団もかけずに寝ていたのだから当然だと宣い、嘲笑まで添えてくれた。
 なんて優しい弟だろうか。ディーンは涙を流す代わりに鼻を鳴らす。
 更に、今日は移動日と決めていたためモーテルで寝込むことも出来ない。
 この生活では予定があってないようなものだが、これは昨夜ディーンが強く訴えたことであるため、この期に及んで引っ込めることは出来なかった。
 プライドが邪魔したのではない。弟の眼がそれを許さなかったのだ。
 とはいえ、熱のある兄にハンドルを握らせるのは危険と判断した弟は進んで運転席に座り、ディーンは珍しく後部座席へ乗り込みシートの上に横たわる。
 アイスバッグを額に載せ、右脚と右腕をシートの下へ垂らして唸っていると、普段は自主的にかけることのないステレオでテープを流し出す。如何に名曲とはいえ、頭痛のしている時にはハードロックを聞くのは利口な方法ではないと身を持って知る。
 辛い兄を思って好きな曲を流してくれる優しに感動し、運転席を肘で打って感謝を伝えれば、どういたしましてとばかりに曲のボリュームが上がる。低温が響き、頭の芯まで揺らす。
 ああ、本当になんて兄思いの優しい弟なのか――――
「おっまえ、ふざけんな!」
 体調不良の時は沸点も下がる。耐えかねて座席な背中を殴り付ければ、
「あんまり大きい声出すと頭に響くよ」
 と、実に涼しい声が返ってくる。言葉面こそこちらを気遣う風だが、それがディーンの怒りを煽ろうとするものだと分からぬほど付き合いは短くない。途中でブランクがあろうとも三十年近く兄弟をしていれば、こんなことは一度や二度どころか七度や八度ある。
「それが苦しんでる兄貴に対してする仕打ちか」
「快適に過ごして貰おうっていう心遣いが伝わらなくって残念だよ」
「いい加減にしろ!」
「まさか。まだまだ……これからだよ」
 なにか、非常におかしな発言が聞こえたのは熱に冒されたディーンの聞き間違え出はなかった。
 普段は安全と警察に目を付けられないこと第一のサムの運転とは信じがたいほど、急停車、急発進、度重なるカーブに凹凸激しい悪路と一体何のアトラクションかと前後左右上下に振り回され、ディーンは後部座席で危うく嘔吐しかけ、その気配に俊敏に気付いたサムにより社外へ連れ出されてなんとか愛車を汚さずに済んだ。
 が、感謝する気持ちもなければ気力もないディーンはその後再び後部座席に沈んだ。
 同じく運転席に着いたサムも、気が済んだのかその後はテープを止め、ごく静かで振動の少ない運転で目的地への道を走り続けた。



Fin.

2016/8/30


以降繰り返しです。
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