【幸せ十題】
小学校低学年くらいの年頃の、少年少女たちの物語。
ラインナップは秋風彩香、姫風さくら、桃宮天音、藤雛拓斗、東堂クリスの計五人。
表示はランダムです。悪しからず。
(※お題はCapriccio様よりお借りしました。ありがとうございますっ)



『四葉のクローバー』

「………」ひくし。頬を引き攣らせてオレは、目の前の光景をまじまじと、でも近づき過ぎないように気をつけながら出来るだけ慎重に、見やる。
堤防とかで、四つ葉のクローバー探してる女の子とかは、確かに良く見かける。オレも母さんと一緒にちょっと探してみたことあるし、そのとき見つけたクローバーとかは母さんが“しおり”にしてくれたりとか、したし。
でも。…さすがに、コンタクトでも探してるみたいに四つんばいになって必死な形相で探してたりは、しないと思う。

……とりあえず、見なかったことにしよう。怪しい人や“もの”についていったり反応したりしないようにって、父さんにも言われたし。
ふい、と視線を明後日の方向に背けて、家への道を辿る。見ないように見ないように。……いやでもやっぱ気にな………ううう…。

「なに、びみょうによこめでチラチラこっちみてんの、ぼう、だんししょうがくせいー」
「……よくオレがしょうがくせいって、わかったね」

微妙に横目で、のくだりは、あえて無視することにする。っていうか、つっこんでも“見たら分かる”とか言われそう…。…女の子の自信満々な、光の加減で濃い緑と黒を彷徨う不思議な目を見てるとそんな気がする。すごく。
ちなみにさっきのオレの質問には、「ようちえんやちゅうがくせいには、みえなかったからしか、ないだろ」ものすごく単純明快でご尤もな答えをもらった。

「えー…それで……なにしてる、んですか?」
「みてわかんね? よつばのクローバーさがしてる」
「………」

うん、それは分かる。…分かるけど。「そこまで……ええと、…ひっし、に、さがす…もの?」言ってて、しつれいなこと言ってるような気がしてきた。本人は必死のつもりじゃないかもしれない、し。もしくは、必死に探さないといけない理由があるかもしれないし。
そんなふあんを抱えて、ちょっと上目遣いに彼女を見やるオレに、ショートカットの女の子は例の不思議な色した目をぱちくりと瞬かせ、その数秒後にぐっと親指を突きたてた。

「なにごとも、ひっしになんないと、つまんないんだぞ、しょうねん」

「………」しつれいとかは、あんま、かんけいなかったみたいだ。
ついつい出そうになる溜息を噛み殺しつつ、じっと目の前の女の子を見やる。さっきから相も変わらずがさごそ両腕を動かしてクローバーを漁ってる。…潜んでるかもしれない虫とかは、あまり気にしないタイプらしい。

「ちなみにさがしてるりゆうは、きゅうにさがしたくなったからな」

……聞いてないよ、とは言えない。…しょたいめんだし。っていうか………帰りたい…かも。…いや、だってほら、父さんとかに、怪しい人に近づいちゃいけないって、言われてる…し。…いやべつに相手するのが嫌ってわけでは、絶対無いからっ!

「………」
「………なぜだまるっ!」
「え、いや、べつにっ」

じゃあオレはこれで、の一言を切り出すタイミングが掴めなかった、とは、言えない。っていうか、言えてたら今頃オレここにいない…し。…っつーかオレ、ホント、面倒事に巻き込まれんの多いよなぁ…。…しょうがっこうていがくねんにして。

「なにとおいめしてんのしょーねん」
「いや…べつに…。…えーと、それより、なんのためによつばのクローバーを……」
「いや、だって、よつばのクローバーゲットしたらしあわせになれるんだぞ」
「それはしってますけど」
「………」

ぴたり。何故だかは分からないけれど、シロツメクサを漁っていた手すらも止めて、「…んー」考えるような呻き声を女の子があげる。

「…だってさぁ、しあわせになれるんだったらどんなことにもすがりたいっておもうじゃん」
「…え?」
「なんでもないようなことがじつはしあわせだったりするんだぞ、しょうねん! …あ、そういううたあったよな、なんだっけ」

…おどろいた。今一瞬なんか、違う空気まとってたような気がしたから。なんかすぐいつもの雰囲気もどったけど。
でもそうか、“しあわせ”か。…そっか。
自然と頬がほころんだ気がした。しあわせとか、今まであまり実感は湧いてきたりしなかったんだけど。それでも何でも無いことこそがしあわせだというんなら、きっと春の陽光の中この女の子と話してる今も、しあわせに分類して良いものなんだろう。

「…オレも、てつだいましょうか」
「お、マジで? よっつほしいんだけど、いーの?」
「よ…よっつ?」
「うん、あたしのぶんと、とうさんのぶんと、ともだちのぶんと、それから」

そこで言葉を区切ってニカッと、真夏の太陽みたいな笑顔を此方に向けて、

「しょうねんのぶん」
「………オレ!?」

言われた言葉をにんしきするのに時間がかかった。確かに彼女には今まで少年少年言われてたけど、此処でオレのことが出てくるとは思わなかったし。

「おうよ。さがしてくれるんだろ? だったら、しょうねんのぶんもいれといたほうが、いいじゃん。しょうねんもしあわせになれるし!」
「………」

…な、なんかこしょばゆいな、こういうの! いや、うれしいんだけど!

「…オレのなんかいれたら、じかん、いっぱいかかります、よ?」
「『オレの“なんか”』じゃないよばか。あたしはおまえにもしあわせになってほしいの。っつーか、もうきめた。おまえのクローバーぜったいみつける!」
「えええ」

なんかおこられた!
よそうがいの出来事にオレがちょっと固まってる間に、女の子はピッと自分の右斜め後ろを指差して、「しょうねんはそっちな。あたしはこっちをひきつづきさがす! あたしもがんばるから“じゅんしょう”もがんばるんだ!」なんだかつっこまざるを得ないようなことを言ってきた。“じゅんしょう”ってなに! っていうか、怒ってたんじゃないのかよ!(“女心と秋の空”とかいう言葉の意味を実感したような気がする。…この年で)

「さぁはやく、ほんごしいれてさがすんだ! “てき”はてごわいのだぞ!」
「“てき”ってなに!」

指定された場所に移動しつつ、とりあえず一つ一つクローバーを確認しながら突っ込む。と、怒られた。そんな立ったままで見つかるか馬鹿者ぉ!…とかいう具合に。
何か、物凄く厄介な子に捕まったような気が、物凄くする。それでも今の時点で後悔はしてないんだけど。この一連の出来事が“しあわせ”なんだと思ったら、胸の辺りがほっこり暖かくなる。それだけで話しかけたことは間違いじゃないんだって、分かるから。
…そうだ、ついでに、彩香のも探して、プレゼントしてあげよう。しあわせの、おすそわけ。


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藤雛拓斗、小学校低学年時。霊能力者であるが故、“もの”はイコール幽霊さんです(さん付けしないと何か怖いです。今、夜だし←)。基本的に至って普通の男の子。ただちょっと不運で貧乏くじ引きまくりなだけの普通の男の子ですよ、ええ。そのせいか心の成長も早かった子。まぁ、気を遣えるとかそういうのだけであって、決して“大人な子”ってわけでは無かったんですが。そして彼の言う“彩香”は勿論秋風彩香のことですよ。彼と彼女は幼馴染設定。
そして、こっそりと神谷有希、小学校時(拓斗より二つ年上)。千恵美とは幼稚園のとき出会っているので、当然のように友達とは千恵美のことを指します。こっちは全然成長してない。ある意味成長しまくった結果なのかもしれませんが。
因みに拓斗も有希も、互いのことは現在覚えてません。拓斗の方は「昔不思議な女の子に会った」ことは覚えてますが、有希だとは思って無いと思います。有希の方は、クローバー見れば「ああそういえば少年が探すの手伝ってくれたよなー」とは思い出すでしょうが顔とか色々忘れてるんじゃないかな。

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