TeaBreak1


Afternoon
tea


龍眼正山小種(ron
yan LOVE sun sution


 


 ※CH3あたりのお話です。


最近のダンの店はひどく混んでいる。

キジは混み合う店は大嫌いなので、わざとランチタイムが終わるころ


Bunch of pigsを訪れるようにしていた。


階段を下り店のドアを開ける。


「おっと」


ちょうど、ダリアと出くわした。


「あら、もうすぐランチ終わっちゃうわよ?」


「ああ、それを狙ってきたんだ」


「そう、ごゆっくり」


そう言い残してダリアは店の階段をのぼっていく。

アルバイトは夜までだから、何か買い物にでも行くのだろうか。


ダリアと入れ違いになって店に入ると、カウンターの主はいつも以上に

不気味な笑みを浮かべてキジを待っていた。


カウンターに座り、キジが「ランチ」とオーダーをした後、

ようやくダンは口を開いた。


「参ったよ。キジ君。どうやらね、オネェサンは僕にホレたらしいんだ」


出された水に口をつけていたところだったので、思わず吹き出しそうになった。


「はぁ?何いってんだ、おまえ」


キジにおしぼりを渡しながらもダンはニヤニヤしたままだ。


「この缶、何に見える?」


「紅茶の缶」


「なんの茶葉かわかる?」


キジは博学なので、大概何でも知っている。

そのこと自身ダンがよくわかっている。


  なんでこんな質問をするのかー


そうダンに問おうとしたとき、ダンは突拍子もないことを言った。


「俺って紅茶にたとえるとラブサンスーチョンなんだってさぁ」


「はい?」


ダンの顔はニヤニヤしたままだ。一度はり倒してみようか。

危険な考えはとりあえず置いといて、ダンの話を聞くことにした。


「おまえがそのラブサン・・・」


「ラブサンスーチョンだよ、キジ」


「そのラブサンスーチョンって例える話はどこから来たわけ?」


ランチの注文を作りながら、ダンは続けた。


「さっきね、おねぇさんと紅茶の話をしてたのヨ。

そしたらおねぇさん、『ダンはラブサンスーチョンみたいだわ』って言うんだよネ。

名前がラブだぜ?ラブとくりゃこれはーって思うだろ」


そう言いながら、ダンはサラダ小鉢をキジの前に置いた。

置かれた色とりどりのサラダを目にして、これはダリアが作ったサラダだな、とキジは思う。

ダンの料理はいつもダイナミックで、こんなに綺麗にピーマンが切れるわけがない。


「その早合点をするまえに、他はないのか?

 ねこはどんなだ、シェルはどんなだ、って例え話は」


「ああ、あるある。そっちはつまらねぇよ。」


「聞かせてくれよ」


「ああ、はい」


ダンはランチのメインとなるピザを、キジの前にドンと置いた。

大きさは目をつぶってもいい。このパイナップルまみれのピザを見るたびに

寒気がする。まずくはない。ただ、この店のピザは常にパイナップルピザなのだ。


「えっとな、ねこちゃんは、紅茶に例えるならオレンジペコーって言ってた。

 髪の毛茶色っぽいオレンジだし、それっぽいよな」


ピザを食べながら、キジは紅茶の”オレンジペコー”がどんな味が思い出していた。

確か万人受けするような、ミルクティによくあう味。


「で、シェルはアールグレイ。俺茶葉に詳しく無いからわからないんだよなー」


「アールグレイって独特の香りするやつだろ。ほの甘い感じの…」


キジはアールグレイにそんなイメージがあった。


「ほの甘…シェルってほの甘?」


「さぁ、ダリアのイメージだからな」


「うーん、ああ、あとは、黒のセンセイのことはウヴァ、キジはダージリン、トニーはニルギリだと」


最後のピザを食べ終えて、キジはため息をついた。


「ダリアって、紅茶に詳しいんだな。意外」


「俺もそう思ってさ、今言った茶葉全部買ってこいってさっきお使いに行かせたワケ」


その言葉が終わるか終わらないかの時分に、ちょうどダリアが帰ってきた。

手には紅茶店の紙袋。


「あら、キジまだいたのね」


ダリアはカウンターに入り、紅茶の袋を一つ一つ並べた。


「これが、オレンジペコー、嫌いな人いないと思う。ウヴァはちょっとクセあるよ。

 ダージリンは色出しが薄いけど、たまに無性に飲みたくなる。

 ニルギリも飲みやすいよ。ちょっと高級だけど。

 あとアールグレイね。これは味がけっこうするけど、私は苦手… 」


色とりどりの紅茶の缶に、ダンは物珍しそうに見つめている。


「オネェサン、ラブサンスーチョンは?」


「あるわ。だいぶ探して見つけたのよ。龍眼正山小種(ロンヤンラブサンスーチョン)ってやつ。

 これね、初めての人は飲めないかも」


「うぇえ”?」


ダンの奇声だ。


「ちょっと燻製のお茶だから、いぶされた味がするのよね。私はお好み焼きの

かつおぶしの味がイメージ。でも飲んでるとだんだん美味しくなってくるのよ。ツウの紅茶」


「あんた詳しいな」


キジはダリアの博識さに驚いた。ダリアはにっこり笑いながら、珍しく照れている。


紅茶の缶の前で呆然と立ちつくすダンに、キジは背中からこっそり言ってやった。


「ツウ好みだって、だんだん美味しくなるんだってよ。よかったな」


「かつおぶしカァ…俺ってかつおぶし…」


ダンがぼそぼそ言い続けるのも無視して、ダリアはカウンターでお茶を淹れる準備をはじめた。


「キジ、ランチの途中でしょう?食後のドリンクは珈琲、紅茶?」


いつもは珈琲派のキジだったか、今日は変えることにしよう。


「紅茶のラブサンスーチョン、飲んでみる。ダンもだろ」


「お、オウよ」


それは確かに独特の香りのする紅茶だった。

だが、飲み続ければ悪くない、とキジは思う。ダンも渋々飲んでいる。

かつおぶしの匂いの中、三人はティータイムを楽しんだ。


 


 


 




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