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◆ 2土×銀◆


『TRES』 ※2011/03/10更新

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 たまげるとは、
 確か、魂が消える、と書いて「魂消る」と読むんだったよな―――、と正に今、魂が消えるほど驚かされた頭の中の何処か、まだ生き残っているらしい冷静な一部分で土方十四郎は思った。
 其れも其の筈。一月ぶりにもぎ取ったオフ。隊服を脱ぎ着替える時間すら惜しみ、先着何名様までという限定ロールケーキとイチゴ牛乳が入った袋を左手にぶら提げ、惚れに惚れ抜き恥を忍んで土下座までして手に入れた恋人の事務所兼自宅である『万事屋』を漸く尋ね、居間に上がりテーブルに手土産を置いてから和室の襖を開けたところ、その愛しい恋人が見慣れた煎餅布団の上、波打つ銀の髪を乱し男に圧し掛かられあられもない姿で悶えていたのだから無理もない。

「……何してんだ?」
 どちらかと言えば、怒るよりも唖然とした土方が数瞬ののち口にしたのはその場に全くもって不似合いな何の変哲もない言葉だった。
 さもありなん。
 ズボンと下着を膝まで摺り下ろされ仰臥する自分の恋人、坂田銀時の股間に顔を埋めていた男、その男には土方自身酷く見覚えがあったからだ。

「ひっ、ひじかた、くん?」
 引き攣った表情を浮かべ漏らした銀時の裏返った声に被せるよう、
「何だ?」
 そそり立つ銀時の純白の熱塊を右手に握ったまま、乗っかかっていた男が背後の土方を振り返り鋭い視線を投げ掛けて動きを止めた。
「何だ……っつーか、……てめえは誰だ?」
「ああ? 人の名前を知りたきゃあ、まずてめえが先に名乗るのが道理じゃねえのかよ」
「ああん?」
 男のぞんざいな物言いに、ピクリ、と土方が米神に青い血管を浮かび上がらせ、と同時に銀時の一物を握っていた男がそれからするりと手を離し立ち上がった。
「んだとてめえ」
 地を這うような土方の低声に、
「そっちこそ、んだてめえは」
 同じ声が重なる。
 ズっと顔を近付け合った二人の間には、まるで鏡が一枚、畳から垂直に伸びているかのような光景だった。
 睨み合う二人の眉、目、鼻に口―――、
 寸分違わぬその秀麗な顔と英姿。
 唯一、いや二つほど異なる部分を上げるとすれば、一方は後で高く一つに括られた長い髪、一方は項が見え隠れする辺りで切られた髪、それと年齢だった。長い黒髪の男は、今の土方十四郎と瓜二つどころかそっくり同じ形貌をしているとは言うものの、一回りほど年若い。

「……銀時」
 目の前の自分そっくりな男を射るように睨め付けながら短髪の土方が言った。
「はっ、はい?」
 上半身を起こし布団の上、あたふたと乱れた着物の前を必死になって直していた銀時がビクリと全身を戦慄かせ弾かれたかのように顔を上げ短髪の土方を見上げた。
「こいつぁ、誰だ?」
「いや、その……、誰って訊かれても……」
「銀時」と今度は長髪の土方が口を開いた。「この男は誰だ?」
「……いや、だから、あの」
「「ああん?」」
「ひっ」
 同時に向けられた鋭い視線が色を失った頬を叩く。
「そ、その……、二人とも土方くん、なんだけど……」
 陽の当たらない和室の片隅で、一瞬、ウイーンという場違いな低く重い機械音が響いた。
「えーと、あの……、こ、これには込み入った事情っつーか、その……。説明、させていただいても宜しいでしょうか?」


 ことは二時間ほど前に遡り、それは一本の電話から始まった。
「もしもし」と大きさに問題のある犬と男子従業員一人、そして女子従業員兼居候一人が出払っていた家の中、居間で鳴り止まなかった黒電話の受話器を取り、さも面倒臭そうに耳に当てた銀時の鼓膜を震わせたのは、『からくり堂』という主に何をやっているのか分からない店の店主の声だった。
「おお、銀の字か?」
「んだジーさんかよ」
 明らかに落胆したかのような返答に、
「はは。誰だと思ったんだ? ああ、あれか? 察するところ、あの物騒な色男からとでも思ったんだろう?」
 自称江戸一番の発明家、平賀源外が頤を解き、茶化す。
「っちょっ! 誰のこと言ってんだよ!? つーか、何のことお!?」
「照れんな照れんな。話はおめえんとこの子供たちからちゃんと聞いてんだ。ここ暫くあのニイちゃんが忙しいようでおめえの元気がねえ、ってな」
「なっ……」
 頬に朱を走らせて言葉を失った銀時に源外は声高に笑いながら続けた。
「いや実はな、面白えもんが出来たんだが、ちいーとばかし懲り過ぎちまったみてえでな。注文とは違ったもんに仕上がっちまってよ。それで依頼主には依頼されたとおりの品物をもう一度一から作って届けたんだが、その最初に作ったもんをどうしようかと思案していたところ、壊すのも勿体無えし……、と、そこで銀の字、おめえのこと思い出して、これはここ最近寂しい思いをしているらしいおめえさんに丁度いいんじゃねえかと―――」

「―――で?」
 布団の上、胡坐をかいて座っていた短髪土方が左斜め前に同じように座る銀時を横目で見詰めた。
「いや、俺は寂しいなんてこれっぽっちも思っちゃいねえからな! そこんとこ間違えんじゃねえぞ!!」
「俺に会えなくて寂しかったおめえはその電話でカラクリ師のジーさんのところに急遽向かった、と?」
 過去に将軍暗殺を企てたものの失敗し指名手配され一旦は身を隠したが、ほとぼりが冷めたと思ったのだろうか、堂々と歌舞伎町内で店を構え商いをしている源外のことは既に真選組内では既知の事実。但し、カラクリ家政婦集団が暴走し江戸に甚大な被害を齎した事件の際、影ながらその騒ぎの収拾に貢献したことと、些か高齢であることを考慮し、不穏な動きを見せない現在のところ警察庁長官松平の専断により逮捕することは見送られている。
「だーかーら、寂しいなんて思ったことねえっつってんだろーが!! ジーさんが勝手にそう言っただけで俺はこれっぽっちもんなこたぁ思ったことねえからな!!」
 ビシリ、と短髪土方に人差し指を突き付け、銀時ががなる。その耳が赤い。
 今まで見たこともない照れた銀時の表情に土方の顔が脂下がりかけたその時、
「そいつぁ、どうかな?」と銀時の左斜め前、土方の右斜め前に同じく胡坐をかいて座る長髪の土方が声を掛けた。
「俺の首裏に手え回して目え潤ませ「久しぶり……」って肩に顔埋めてホッとため息漏らしてたじゃねえか」
「ちょっ、てめえ!」
「そうなのか?」
 短髪土方が顔を側向け長髪土方に訊いた。
「ああ、可愛かったぜ」
 元々、銀時に一方的に惚れた土方の押しの一手で始まった関係だった。困った者が居れば見逃せない、面倒見がよく懐が広い上に流されやすい。それを知ってからは逆手にとって言い寄った。しかし触れることを許された今、銀時が土方にこの関係を、また土方本人のことをどう思っているのか、その本心を吐露したことは一度もない。
「……そりゃあ見てみたかったな」
「ちょっ、黙れ! 何おめえら微妙に馴染んでんだよ!?」
 立ち上がり真っ赤な顔で怒鳴る銀時を「まあまあ」と言って短髪の土方が宥めた。形のいい唇の、意図せず持ち上がった両の口の端が銀時の内にイラリとした感情を生じさせたが、敢えてそれを見て見ぬふりをして何とかやり過ごす。
「それで、肝心の説明の続きはどうなったんだ?」
 短髪土方がそう訊いた直後、再び無機質な音が部屋に響いた。
「……」
 その方向に視線を流し、
「さっきから気になってる得体の知れないあの箱が何か関係あるのか?」
 土方の問い掛けに銀時が一拍ほどの間を置いて気まずそうに視線を逸らす。
「まあそのぉ……」
 そしてゆっくりと頷いた。
「……そうなんだけど―――」



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