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書いた人 宝





 阿部君からメールが来た。今日の練習試合のことだ。
 携帯電話が鳴るとビクッてなる。相手が阿部君だと、びっくりした後もずっとドキドキしてる。どんなことが書いてあるか分からないから。
 でも読んでるうちにぎゅーと締め付けられてた心がフワーとなった。
 今日のメールはすごく嬉しいメールだ。長いメールだ。俺のこと褒めてくれてる。よく頑張ったって書いてある。
 何度読み返してもそう書いてある。それで最後に、風呂入ってすぐ寝ろよって書いてあった。阿部君はお家に帰っても俺のこと心配してくれてる。
 すぐに返信画面を呼び出して返事を書いた。今日は皆も頑張ってた。でも一番褒められるのは阿部君だ。阿部君の牽制でアウトを取ったし、いっぱい打ってた。監督も「いいわね」って言ってた。俺はベンチにいたから知ってる。俺のリードをしてくれて、打てて、守れるなんて阿部君はすごいって、いつも思ってることを書いた。俺阿部君に言いたいこといっぱいある。
 書きたいことがいっぱいありすぎて、ちょっと長すぎる気がしてきた。それに、おんなじことを何回も言ってる。日本語もおかしい。それにちょっと喜びすぎてる気がしてきた。阿部君は多分普通に「お疲れ」って感じで書いてるのに、そんなに俺が喜んだらきっと阿部君はなんだこいつって思う。もしかしたらお世辞で言ってくれてるだけかもしれないし、それなのにおおはしゃぎで阿部君もすごかったよね!って書いたら、呆れられるかも。阿部君がすごいのは本当だけど、俺みたいのが言ったら、図に乗ってるって思われて、お世辞も分からない馬鹿って思われる。ウザイって思われたら、メールしてくれなくなっちゃうかもしれない。
そんなことを考えて沢山書き直していたら、どんどんメールが短くなってきた。
 考えあぐねて削ったけど、これじゃあ俺の言いたいことなんて全然入ってない。でもどういう風に言えば良いのか分からなくなってしまった。どういう風に書けば俺の気持ちが伝わるのかな、指が動かなくなってしまった。
 あ、と思って時計を見ると、メールをもらってからだいぶ時間が経っていた。それにもう遅い時間だ。阿部君は寝てるかもしれない。
メールには「ありがとう、お風呂は入った」しか書いてない。そんなのを送って、阿部君が起きたら可哀想だ。阿部君だって疲れてるし、こんな時間まで俺が起きてるってばれちゃう。きっと怒られる。
 書いたメールを消して、ベッドにねっころがりながら阿部君のくれたメールをもう一度だけ読み返した。
俺が頑張れたのは阿部君のお陰だって、阿部君が俺のことをいっぱい考えて、俺のために色々してくれるから、俺は投げることだけに集中できるからだって言いたい。でも俺がそういうことを言うと、阿部君はあんまり本気にしてくれない。受け流してるって感じがする。俺の言ってることが10%も伝わってない。俺が本当にありがとうって心の底から思ってるって阿部君にはちゃんと知ってて欲しい。
俺のありがとうが野球のことだけじゃなくて、色んなときにいろんな事で阿部君は俺を見ててくれたりすることもそうだって知っててほしい。
阿部君には普通のことかもしれないけど、俺には特別なことなんだ。それでそういうのに俺はすごく助けられてるって最近思う。
だって俺、前より自分のこと嫌いじゃないんだ。まだ落ち込んで自分のこと嫌だなって思うこともいっぱいあるけど、でも前ほどじゃない。
そんなことが嬉しいなんておかしいと思われちゃうかな。俺がどんだけ嬉しいか阿部君には分からないかもしれない。阿部君は俺に自信をくれようとしてる。でもそれだけじゃない、もっといっぱいのものをもらってるって気がするんだ。
きっとこんなこと前までは分からなかった。
俺がそんな風に思えるようになったのは阿部君のおかげだって言いたい。
でも言おうとしてもうまくできない。胸の中が言葉でいっぱいになって破裂しそうな中から上手に言葉を選べなくて、いつも上手にいえない。
そんな時、伝えたいことがいっぱいあるのに、出てこなくて胸が苦しくなるんだ。それで、自分が悔しくて泣きたくなる。
阿部君に言いたいのはありがとうって言葉だけじゃ全然足りない。ほかにどういう言葉を付け足せば俺の思ってることが阿部君に伝わるのか分からない。
こんなとき阿部君だったらきっとすぐに言えるんだろう。ちゃんとした言葉で、きちんと思ってることを伝えられるに違いない。
おれ阿部君に言いたいことがいっぱいあるんだ。最近いえない気持ちがいっぱいになりすぎて、阿部君のことを考えるだけでも苦しくなってきた。
こんな苦しい気持ちを言葉で言うならなんなんだろう。
つたない言葉でも阿部君に聞いたら分かるかもしれない。阿部君だったら知ってるかも。こんな気持ちの名前を。
メールの返事と一緒に、明日直接言ってみようかな。



おしまい。




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