もっと傍に来て






――この世の中、ブログで芽生える恋もある。かもしれない。






『もっと傍に来て』1-1





「だからさぁ〜、な〜んか面白い企画、どっかに転がってないかな〜って、言ってんのー。記念すべき、俺の芸能生活10周年なんだからさぁ〜?」

 だらしなく客用のソファに身体を投げ出し、長すぎる足をもてあまし気味に机に乗せ、真面目何だか不真面目何だかわからない発言をしている男がひとり。

 そろそろ立派におじさん世代……だというのに、『永遠の少年』よろしく一向に落ち着く気配のない、わが事務所きっての稼ぎ頭・東城晴信(36)、独身、職業・シンガーソングライター(通称ハル)。

「ね、言ってるイミわかるぅ?エドちゃん」

 う〜ん。マンネリ打破ってこれがケッコウむずかしーんだよねーエッチもそうだけどさぁ〜って。もー、いきなり朝から下ネタ吐かないでくださいね?と視線で促す。

「うーん。そうはいっても…ウチのサイトってけっこう頑張ってると思うンすよ」
「まぁ、ね」
「ハルさんの遊び好きなところを反映して……っ、痛っ!」
「一言多いだろぉ」

「俺はいい意味で言ったのにぃ〜、ひどいっすよー」

 殴られた頭をさすりながら涙目で訴える男は、江戸川(通称エド)卓巳(27)、同じく独身、ただし彼女あり、職業・ウェブページデザイナー、というか――もともとこの芸能事務所のスタッフだったのが、必要に迫られているうちに本人もけっこう嵌っちゃって、周りからの評判も上々で、調子に乗ってるうちに、いつの間にかそういう肩書きになっていた、という経歴の持ち主。

 特に「面白いこと大好き人間」ハルこと東城晴信の、ほとんどイジメか?と思うほど斬新なアイデアを形にしていくうちに、ウェブデザイナーとしてどんどん力がついた、というのがなんとも涙を誘う、というのが社内の評だ。

 だけど、ただのスタッフでは到底味わえないような充実感を日々感じている自分は、その経歴を感謝している。だから、この人との打ち合わせは、俺にとっては最重要項目なんだ。傍目からはふざけているように見えるかもしれないけど。

「確かにさぁ、他に比べりゃファンサービスもけっこー頑張ってるつもりだけどさ」

 もっとこう、今までやったことないザ・ン・シ・ンなヤツ、ない?ねぇ?
 そう言いながら、ヘッドロックをかけて頭を拳でぐりぐりされる。いつまでもハートの熱いこの男、スキンシップ魔でもある。

「ねーー、エドちゃーーーんーー」
「うわっ!やめてください〜!ろーぷろぉーーーーぷ!!!」

 ソファの背凭れをバンバン叩いてギブアップをアピールしたら、案外あっさりと開放してくれた。ほっ。

「うーん。そうですねぇ。今は誰でもブログやる時代ですから。ハルさんも、いっちょどうですか?ほら、サッカー選手とか野球選手もブログやってるし」
「日記みたいのなら、ラジオのホムペでやってるじゃない」
「それもそうですね」
「もちょっと、ひねりの効いたのが欲しいね」
「……はぁ」

 うー。そんな簡単にアイデアが浮かぶほど俺の頭は出来が良くありませんって。

「でもハルさん。今、ハルさんはレコーディング前でいろいろ忙しいんだから、たまには外に玉飛ばしたらどうっすか?」

 自分には荷が重過ぎるので、ここはプロに外注しちゃいましょうよーと、暗にほのめかしてみる。その意図を汲み取ったらしい相手は、それまでのふざけた態度を一転させた。

「あのさ。オレは、お客さんを喜ばすために存在するわけよ。その大事な仕事、他人任せにしてどーすんの」

 その真剣な表情にぐらっときた。いや、別にそーゆー趣味があるわけじゃあないけど。ほら、男が男に惚れるって、言い意味でも昔から言うっしょ?

――お客様は神様です。

 コレが、この人のこだわり。お客様(=ファン)を喜ばせるためなら、手段は選ばない男、なんだよね。だけど、人を“あっ”と言わせるようなことを考えるのは、やっぱり大変だ。




*以前サイトに掲載していた『もっと傍に来て』を改訂して再掲しています。
 マプチ=Ma petit douceurの真澄の、未来のお話。




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