ナチュラル・コメディエンヌ

「違ェ。ワンセグのワンに「犬」的意味合いは、欠片も存在しねー」
「……wonderful?」
「たかがポータブルテレビジョンに何故そこまでの賛辞を!oneだone!」
「ああ、1ね」
「おまえはマジでなんも知らねーな…」
「なんにもってことはないわ。知らないことだけ」
「今時の一般常識だぞ」
「たまたまよ。それなりに知ってるわ、いくらなんでも。一応わたしだって現代の女子高生なんだから」
「現代の女子高生、ってワードにブランドを感じているあたり、既に微妙だけどな」
「レギンスがそういう名前の洋楽歌手だと思ってたのは、先月までの話よ」
「布地が一体何を歌うと!?」
「KYはKingdom Yunited of statesの略称なのかとも思っていたけれど」
「既にその発言が空気読めてない!」
なんかこう、世界交流的な面で!
つーかユナイテッドの頭文字はUだ。そして英国と米国混ぜ込んだような未開国名を発明すんな。
茶髪と碧眼の外見を軽やかに裏切っている姉崎女史は、唐突に「あ」と声を上げて、上空を指差した。
「あ、ヒル魔くん。おとうさんだよ」
言って、白い犬が駆け回る街頭テレビを微笑ましく眺める。
図ったように流れているのは、携帯会社のCMだ。つかそれは知ってんのかよ。
「segregationistだな」
「そういう言葉は嫌いよ」
「ある意味、だ。ほら、人という種を区別する者という意味で」
「本当にある意味だね」
「やっていることはさほど違いもないのに、区と差でどうしてこうも印象が変わるんだかな」
「確かに、差の方が若干ネガティブね」
「だれそれと差をつける、なんつー無駄なことをあけっぴろげにして喜ぶのは人間だけだ。どんな生物だって、どんな世界だって、競争社会であることに変わりはねーんだから、んなネガいもん、腹ん中に押しこんどきゃあいいんだよ。それを自尊心充足のためだけに、バカみてーに表に出してはしゃぐんだ。黙っとけねーんだな、自分だけがスペシャルであると信じたくて」
「ノーコメント」
「賢い選択だ。そのまま仕舞い込んどけ」
「あ、ねえ、じゃあ、おとうさんは区の方ってことになるのかしら」
「まあ、犬だからな」
「そうね、犬だからね」
信号が青になった。
「今、わたしたちも区別したね。人という種を。それ以外の種と」
「まあ、人間だからな」
「そうね、人間だからね」
ゼブラ柄の道を渡る。
「only-one segregation。略すとワンセグ」
「略すとな」
………あれ、なんか戻ってね?




ワンセグ:携帯電話・カーナビ・ノートパソコンなど移動機器向けの地上デジタルテレビ放送のこと。ワンセグメント放送の略。
レギンス:脚にぴったりした細いズボン。脚絆。
KY:「空気・読めない」の略語。「AKY(あえて空気読まない)」などの派生語も生む。
segregationist:分離主義者。人種差別主義者。

静かな秋と冬の拍手?
某はねかわさんを逆ベクトルでオマージュってみた。
姉崎さんは、こういうことに関してはことごとく知らないと思う。
つっても、いくらなんでも疎すぎたが。

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