「ねえ」


研究が一段落して、休憩する時間を見計らって紅茶を淹れる準備をしていると。

いつ台所へ入ってきたのか、後ろから声をかけられた。


「何?」

「君、本当に僕のこと好きなの?」

「え?」


背を向けているからわからない。

彼が今どんな顔でさっきの言葉を口にしたのか。

いつものあの無表情ともとれるしかめっつら?

それとも時々見せる優しい微笑み?

そもそも何でそんなことを聞くのか。

好きでなかったら一緒にコールドスリープなんてするもんか。


「急にどうしたの?」


彼の表情は気になったけど、紅茶用の砂時計が落ちきる直前だったから、振り返らずに答えた。

「・・・ジークリード様?」


湯通しをしていたカップからお湯を捨て、温めていたもう一つのポットに出来上がった紅茶を移す。

返事は聞こえてこない。

お盆にポットとカップを載せる。


「・・・敬語」


ボソ、と聞こえた言葉は、私の質問に対する返事ではない。


「あ、うんごめんジークリード。

 つい昔の癖で。

 で、どうしたの突然?」


お盆を持って振り返る。

そこには私の想像してない顔をした彼が立っていた。

困っているような、それでいて苦虫を噛み潰したような。

・・・ああ、なんとなくわかってしまった。


「口にされないと、不安?」


目覚めてからずっと、自分達は一緒に居て。

好きっていう気持ちが理解できなかった彼、理解し始めた彼。

多分彼は、その一言を口にするのに普通の人がどれだけ勇気を使うのか知らない。

だから、好きって単語を口に出すことを厭わない。


・・・・・・ああ、でも彼は他人に対してお荷物だとか寄生虫だとか、普通の人が言えないような気持ちを素直に口にしてくれちゃうから好きって気持ちが分かってても言えたのかも・・・。


でも私はどっちかといえば普通の人側。

過去好きになった人も居るけど、結局告白はせず終いだった。


そういえば、私から言ったのって、コールドスリープ前・・・?

一緒に居るとか、落ち着くとか、そういうことはたくさん口にしてきたから、言ってるのと同じつもりだった。

でもやっぱり改めていうのは照れくさい。

だからってわざわざ聞いてくる程不安にさせていただろうか?

・・・最近恋愛小説なんてどう考えても彼が読みそうにない私の本を読んでいるようだから、それが原因かもしれない。

どの本の主人公達も、安易に好きと口にし過ぎだから。


一度持ったお盆を置く。

私の質問に、相変わらずおかしな顔のまま無言で居る彼に近寄って、これから先一ヶ月分くらいの勇気を吸い込む。


「好き、だよ」









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