★ ただいま五作品掲載中です ★


○ 『華鬼シリーズ 華鬼×神無』 お題:華鬼の手料理。
○ 『華鬼シリーズ 梓』 お題:彼女から見た彼ら。
○ 『魔王様シリーズ イナキ+ダリア』 お題:はじめてのおつかい。
○ 『華鬼シリーズ 大田原』 お題:お見舞い。
● 『華鬼シリーズ 響×桃子』 お題:二年後(本編読了推奨)
※リクエストは某キャラの三年でしたが、ネタバレのため変更しました。すみません。

「桃子、今週の日曜日あけておけよ」
 六月に入ったある日、せわしなく朝の支度に精を出す同居人に声をかけると、彼女はお玉片手に振り返って怪訝な顔をした。
「なんで。シフト入ってるのに」
 日付を確認してさらに怪訝な顔になった桃子に響は心底呆れた視線を向ける。イベントごとには頓着ない女であることは知っているが、まさか自分の誕生日すら気にとめない女だとは思わなかったのだ。
「誕生日だろ」
「響の?」
「お前のだ」
「……ああ、本当だ。でもコンビニでバイトが」
「休め」
「勝手なこと言わないでよ、他の人に迷惑かかる」
「わかった」
 人がせっかく祝ってやろうというのに、喜ぶそぶりさえ見せない桃子の態度が腹立たしい。基本、他人のために動くことが何より嫌いな男は満面に笑みを浮かべた。この笑みがろくでもない思いつきによって現れるものだと熟知している彼女は、キッチンを背にひくりとその顔を引きつらせた。
「日曜日はお前のバイト先に居座る」
 宣言すると、桃子の顔が見る見る青ざめていく。
「ちょ……!! やめてよ、迷惑!」
「俺は暇だからな」
「あたしは働いてるの!」
「関係ない」
「あんたには関係なくても迷惑だって!」
「嫌がらせしに行くんだから当然だろ」
「ムカつくー!」
 地団駄を踏みかねない勢いで憤慨する桃子に最上級の笑みを向けると、彼女はくるりときびすを返した。
「休む! 休めばいいんでしょ!!」
 響が桃子のバイト先に行けば、大概は目もあてられないほど混乱する。その後は根掘り葉掘り訊かれてかなり鬱陶しいらしく、きまって一ヶ月以内にバイトをやめてしまうのだ。どうやら今回のバイト先はそこそこ気に入ってるらしい。
「だいたい、なんであたしがあんたの暇つぶしに付き合わなきゃいけないのよ」
 朝食を作りながらぶつぶつ文句を言う桃子の後ろ姿を眺めながら、響は呆れながらも感心する。鬼ヶ里を出てからあれやこれやと理由をつけて桃子について回り、最終的には同居するまでもっていったのだが、一緒に暮らし始めて二年もたつのに桃子はいまだにこの状況を嫌がらせとしか思っていないのだ。
 普通はそれ以外の可能性を示唆すべきだろう。少なくとも、響は嫌いな人間と同じ場所にいたいと思うタイプではなく、目障りな相手は有害と判断して全力で潰すのが信条だ。そんな響の性格を桃子はよく知っているはずなのだが――。
「鈍い女だな」
 ふっと溜息とともに吐き出す。
 しかし彼は気づいていない。その愛情表現が歪んでいるせいで、相手にまったく伝わっていない事実に。しかも無駄に余裕のある男は手すら握らないので誤解はさらに深まって、すっかり「遊びほうけるムカつく同居人」と思われている始末だ。
 この関係、このさき当分続く。




ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。