昔々のその昔。
 晴の神と雨の神が喧嘩をしていました。大地には太陽が照りつけ、かと思いきや雨が降り。大地はひび割れたり沼地になったり、雨のあと照りつけた太陽で水は水蒸気となり、空には霧が立ち込めることもありました。
 それはまだいいほうですね。
 人々はもう何にすがることも祈ることもできず、ただただ諦めました。


 昔々、ひとりの巫女がおりました。
 ある日、天候の変化にいい加減で切れて神様に会いに行きました。

「責任者出てきやがれーーーー!!!!」

 事実は殴り込みでしたが、そこは、まぁ……ほらほら、伝承と言うのは口伝で伝わるもので、事実よりロマンチックになるものですよ。


 さて、突然現れた女におどろいた神様(二人)は、顔を見合わせました。今まで喧嘩していたのが嘘みたいですねーですねー迷惑な。
 で、こっぴどく巫女にお説教を食らった神様二人。いじけるように言い訳をはじめました。この大人のくせに……なんなんでしょうねー

 晴の神は言いました。『耳が聞こえないのに、雨の神は歌の素晴らしさを伝えてくる』と。
 雨の神は言いました。『目が見えないのに、晴の神は舞の素晴らしを語るのだ』と。

 とりあえず巫女は二人を殴りました。ちなみに、一発で終わりません。どちらかと言うと彼女のストレス発散……いえなんでも。

「で、なんだって?」

 今言っただろうと、タコ殴りにされた神二人は怯えながら思いました。ちょっと女がトラウマになりつつあるようです。

「――あんたたち。馬鹿なの?」

 殴り足りないのかしら。と、腕を開いて、握るのを繰り返す。ひぃっと、神様二人は身を寄せて抱き合いました。男二人、暑苦しいですね。
 しばらく怯える神二人を見て、そしてそれにあきたように手をおろして、ため息をつく巫女。神二人から少し距離を取って、彼女は背筋を伸ばして、深呼吸しました。

 そして彼女は、踊りながら、歌いました。

 耳が聞こえない晴の神には、舞が見えました。
 目が見えない雨の神には、歌が聞こえました。

 それが当然。だけど――

 まるで呼応するように震える空気が、繰り返される動きが規則正しいリズムとなって――

晴の神には巫女の声が震えて、空気を揺るがすのが見えました。
雨の神には巫女の足の動きが、地を震わせて体にゆれを感じました。

 巫女は楽しそうに、気がすむまで踊り続け、歌い続け。舞って、語って、手を伸ばして、声を上げて。
 それはそれは、楽しそうに。
 いつの間にか、晴の神は空気を震わすように息を吐き、雨の神は地を動かすように体を揺らしていました。


 喧嘩を忘れた二人のおかげで、空には平穏が訪れました。晴れて、雨が降って、また晴れて、また雨が降って。それの繰り返し。


 いつまで続いたのだろう。やがて必ず繰り返すハジマリと終焉のように、巫女は動きを止めた。緩やかに、いつまでも動いていたいかのように、送れるように、髪と服の裾が落ちて行く。

 二人の神は、しばらく、動けなかった。――そして――思い出すのだ。


 神二人が最高の賛辞を送る前に、巫女はこれで最後と言うように二人を殴った。


「聞こえなくても、見えなくても、届くものがあるでしょう」


 二人の神は、頷きました。


「それでいいでしょう」


 神は二人とも、頷きました。



「私は、ずっと。ずっとずっと、舞って、歌うわ――あなた達が、泣かないように」


 それがはじまり。



― 天候の巫女 ―

おしまい



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あと1000文字。