※もし二期になっても刹那の体型が変わらなかったらというパロ




刹那は姿見に映る己の分身に眉根を寄せた。何度ベルトで調整しても、そもそもベルトが大きくて上手い具合に締められない。腰に引っかかりもしないズボンを片手で抑え、さてどうしたものかと思案する。
ずり下がるズボンに肩幅の合わないボレロ。流石にこのままの姿でブリーフィングルームに行くのは憚られる。内線でラッセに連絡して他のサイズを持ってきてもらうしかない。ラッセならば多少は笑うだろうが、フェルトやミレイナに見られるよりはマシだ。刹那とて幾らかの羞恥心は持ち合わせている。
壁に取り付けられた小さなディスプレイに手を伸ばす寸前、扉の外からコツコツと叩く音が響いた。

「刹那、入っても構わないか」

思わぬティエリアの来訪に刹那は返事を躊躇った。
四年ぶりの邂逅を済ませて彼の印象が良い方へ変わったには変わったが、頭の中には未だ昔の釣りあがった瞳が色濃く残っている。彼はマイスターに相応しくない者に厳しかった。この格好がマイスターであると堂々名乗れると思わない。
迷っている間にも刻々と時が過ぎていく。彼は待たされるのも嫌いだった。耳の奥で怒鳴り声を思い出し、はっとして返事をした。しかし入室を断る声に棘はなく、刹那は首を傾げる。

「ああ、やはりサイズが合わなかったようだな」

部屋に入って開口一番そう言い、刹那の姿を見て緩んだ表情に一切厭味はなかった。パシュンと背後で閉まった扉を合図にティエリアは近づいた。刹那はそこで漸く彼の手にもう一着制服があるのに気付く。

「これなら君でも着れるだろう」
「すまない」

受け取ったそれを広げてみると、確かに今の自分に合ったサイズだった。あるならそれを先に出してくれればいいのにと思いつつ口にはしない。
ちらりとティエリアを伺い見れば、彼は壁に背を持たれて動こうとしなかった。男同士だから着替えを見られて困ることは何一つないのだが、余り成長しなかったこの体を晒したくなかった。だが言った所で自分の自尊心が血を流すだけだ。刹那は早々に諦めて上着を脱ぎ捨てる。
ささやかに筋肉がついたとはいえ、元々が骨と皮の肢体を目の当たりにしてティエリアは眉を顰めた。

「ちゃんと食事を取っていなかったのか」

咎める訳ではなく、空白の時間をただただ心配そうにティエリアは言う。叱られることが習慣づいていただけにくすぐったい感じがした。

「エクシアの整備で手一杯だったんだ」
「君はいつもそればかりだな。だからこんな肉付きが悪いんだ」

気がつけば耳元にティエリアの吐息が当たっていた。刹那が振り向く前にぶかぶかのズボンの隙間から手を差し込まれ、小振りな尻を柔く揉まれる。

「っ、ティエリア!」
「骨が当たるぞ」
「な、ら、触るな!」

円を描くように揉みしだかれると体に力が入らなくて刹那はロッカーにすがりついた。驚いた拍子にズボンはあっけなく床に落ちてしまい、晒された素足が寒い。

「肋骨も浮き出てる」
「っ、ぁ」

片手がそろそろと前へ回り、臍から胸へ撫で上げる。形の良い爪先が乳首を掠めると、たまらなくなって刹那は喉を反らした。殺し切れなかった高い声が食いしばった歯の隙間から漏れ聞こえる。
背中に当たるティエリアの制服の感触にすら肌が粟立った。意識してではないだろうが、徐々にかけられる体重に刹那はロッカーとの間に挟まれた格好になる。冷たい鉄と布越しに伝わるティエリアの熱の温度差が変に心地よい。

「んっ」

身長差があるために覆い被さられると刹那はすっぽり隠れてしまった。上から耳を食まれて、ロッカーに立ててた指が一層白くなる。





「君がこの四年で不規則な食生活を送っていたことがよくわかった」
「・・・・・・そうか」

散々体中を撫で回した挙句、最終的に出てきた言葉がたったこれだけで刹那は床に座り込んだ。無駄に体力を消耗したし中途半端に煽られた熱が辛い。
足元にはさっきまで着ていたのと新品の制服が乱雑に散らばっている。八つ当たりのように半眼でそれを睨み付けた後、のろのろとそれらに手を伸ばした。立ち上がるのも億劫だったがいつまでも下着一枚でいる訳にはいかない。ティエリアの視線を感じながら刹那は今度こそ制服に袖を通した。
肩幅も丁度よいしズボンもずり落ちることなどなかったのだが、ウェストが若干きついのに胸回りと大腿部が大きい気がする。裾を引っ張りながら首を傾げていると背後からティエリアの笑い声が響いた。

「ひとつ教えてやろうか」

何がそんなにおかしいのか、眼鏡を外して目尻を拭うその姿を初めて見る刹那は眉を顰める。理由も分からず笑われるのは不愉快だし、何よりあんなことをするようになったティエリアが恐ろしい。

「それはフェルトの予備だ」
「なっ・・・・・・!」
「男性用を着たければしっかり栄養を取ることだな」

呆然と口を開けて、わなわな震える刹那に合う男性用のサイズがないことを言外に匂わせながらティエリアは部屋を出て行った。彼がこの後どんな顔でフェルトの前に現れるかを考えただけで愉快になる。
ティエリアはくつくつと笑いながら、新しく制服の発注を頭の中で考え始めた。







※全1種類



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