触れる指は自分でも笑えるくらい震えていた。
渇望する心と裏腹に、まるで神聖なものに触れるような背徳感が押し寄せて・・・自嘲する。
(何を今更・・・)
あの夜以来の白く滑らかな肌に手を這わせ「愛している」と、何度も耳元で囁いた。
そんな言葉で縛ることができるなら、恥じらいなんて掻き捨てて、いくらでも言ってやる。
そうして、焦がれて止まないおまえが、俺を選ぶかもしれないなどと、夢みたいな選択肢を掲げて迷うから。
――俺はズルくても、それを選ばせると決めた。
そうだ、迷う必要などない。
お前を幸せにするのは・・・俺以外ありえないと、思い知れ。
+++ LOVE HOLIC 10st 『繋がる心』 +++
「・・・っ、あ!イザークっ」
堪らないと首を振って鳴く声は甘くイザークの名前を呼んで、欠片に残る理性という名の壁を、いとも簡単に決壊させる。
溢れる、流れる、去来する。
諦めると決めたはずの想いは、アスランの一声で、いとも簡単にこの胸へと還って来てしまった。
こんな強い感情の名前をイザークは知らない。
『恋』と呼ぶには激しすぎて『愛』と呼ぶには幼すぎた。
「・・・ずいぶん、たくさん可愛がられたようだな」
晒されるアスランの白い肌には、イザークが付けた覚えのない無数の花が咲いていた。
花達は、まるでイザークに対抗でもするかのごとく、その存在を主張していて、イザークの口からは無意識に小さな舌打ちが漏れる。
ところどころ、赤黒く浮き上がった花は、イザークの刻んだ証の上から重ね刻んだものだろう。
・・・それは、まぎれもなくキラが確かにアスランを抱いたという証だった。
(我ながら、酷い独占欲だな)
ちりっ、と痛む胸に眉を寄せて自嘲する。
まだ自分のモノになったわけでもないのに。
どうすればいい?
どうすれば、アスランの心を、完全に自分のモノにしてしまえる?
何度考えたところで、答えなど出るはずも無い。
そんなに簡単に答えが出るというのなら、こんな風に長く空回りばかりして、アスランを傷つけることなどなかっただろう。
――気持ちばかり急いても、何も得られはしないのに。
愛情と同じだけ、もどかしさが比例する。
だけど、自分は彼以外にこんな感情を抱いた事などないのだ。
この感情のあしらい方なんて、知らない。知る筈もない。
「アスラン・・・奴が触れたところを言え」
「・・・え?」
「ここは、触れられたか?」
脇腹をそっとなぞって問われる言葉にアスランは真っ赤になった。
「何言って・・・」
「確かめたいんだろう?なら、奴の触れたところと同じところに触れてやる。その体で、俺と奴の違いをはっきりと確かめろ」
アスランは、その言葉を聞いて羞恥に首を振る。
確かにアスランは「イザークとキラへの感情の違いを確かめさせて欲しい」と言った。
その最たる方法として、体の繋がりを求めたことも確かだ。
だが、「違い」を追及するそれは、あくまで気持ちの問題であって、実際にキラが触れた場所を明確にイザークになぞって欲しかったわけではない。
「違っ・・・――んぅ!」
誤解を解こうとして言葉を紡ぐはずだった声は、くぐもった声にしかならないままイザークの口腔へと掻き消えた。
戸惑い見上げるアスランの瞳を見ながら、イザークは少しの罪悪感におかされる。
・・・イザークとて、アスランの言っている意味はわかっていた。
わかっていたけれど、わからない振りをした。
だって、イザークは奪う術しか知らない。
優しく、傷つけずに振り向かせる方法を知らない。
だけど、考えるよりも早く、アスランの体から、キラの感覚を、証を拭いさりたかったから。
全てを、イザークの色に染め変えたかったから。
だから・・・
「ここは?」
胸の突起を指先で刺激しながら聞くと、アスランは声をあげないように腕を口に当てて首を振る。
「・・・アスラン、黙っていたらわからないだろう」
クスリと笑って、刺激を与える指先はそのまま、残りの手で口に当てている腕を引き剥がすと、泣きそうな声が自分の名前を呼んだ。
それでも、指の動きは止めることなくアスランを攻め続ける。
「や・・・、イザっ・・・」
「観念して、さっさと答えろ」
「あ、んっ!・・・だって、よく覚えてな・・・っ」
イザークの意地悪な質問に、アスランは顔を真っ赤にして答えた。
その答えにイザークは、嘘をつくなと言ったけれど、アスランにしてみれば紛うこと無き本当の話だ。
キラに抱かれた記憶はあっても熱に朦朧としていたアスランは、キラが自分のどこにどのように触れていたかなんて、こと細かに覚えてなどいない。
ただ、覚えているのは・・・
『アスラン、ちゃんと僕を見て。――愛してるよ、アスラン』
「・・・っ!!」
一瞬、意識を取り戻したあの時。
キラは、自分に対して何をしていた?
忘れるはずがない。忘れられるわけがない。
だって『あれ』は、アスランの昔見た夢の具現。
銜えた端から覗く、赤い舌。
濡れた唇。
見たこともないような妖艶な顔で哂って・・・・
「―――アスラン?」
かっ、と効果音が入りそうなくらい目に見えて赤くなるアスランに、イザークは目を細めた。
『忘れないでね。僕のモノを、君の内に――ここに、呑み込んだこと』
そう、忘れることなんて、許されない。
あれは高熱に浮かされた自分の見た幻だったんだと信じたくても・・・体が覚えている。
あの・・・言いようのない感覚を。
「な、んでもない・・・」
「貴様はなんでもないのに突然赤くなるのか」
「ぅ・・・な、なるよ」
「嘘をつくな」
「嘘なんて・・・」
「何を思い出した?」
まるでアスランの思考を読んでいるかのように、イザークはアスランを見つめて的確な問掛けをする。
「何も思い出してなんか・・・っ」
慌てて否定しても、もう遅い。
一度気付かせてしまったら、どれだけ誤魔化そうとしても無駄だ。
イザークの目は、まるで真犯人を追い詰める探偵や刑事のように、自分の推測に絶対の自信を持った者の目をしている。
「アスラン」
・・・呼ぶな。
そんな声で、呼ばないで欲しい。
暴かれる。全てを。
最初に体を重ねたあの夜のように・・・また。
――しかしそう考えて、すぐにアスランは首を振った。
(いや、違う・・・同じなんかじゃない)
あの夜とは、大きく異なる点がある。
そう、同じなんかじゃ、ない。
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拍手、ありがとうございましたvv
そして、大変お待たせ致しました・・・!!!!
4月更新とかぬかしたのは誰ですかね・・・
もう7月・・・いや、でもありあの心は永遠の4月です。←逝って来い
――もう何ていうか本気ですみませんでした。。
総ページ数:2P。
あいかわらず、拍手お礼だということを疑うような長さです(遠い目)
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