休日の過ごし方 ~「約束」編~


1、
不安な夜を、二人で過ごす。
まだ、何も確実になったものはなくって、あやふやな中で二人だけで見出した、
このリノベーション・マンション・ライフ。
私達を取り巻くのは、道明寺の会社の問題に起因する厳しい情勢や、
周囲の人々の、不穏な思惑

それでも・・・
絶対に、二度と手放したくない。・・・二人でいられるこの空間。
誰にも、許されなくてもいい。
この行為ゆえに、私は道明寺の正式な「婚約者」たる亜里沙・クレオ・ケインへの裏切りをおかしているとしても、
いま私のしていることが、誰からも軽蔑されて見放されるようなものであったとしても・・・
構わない。・・・道明寺さえ、ここにいてくれれば。


二人で勝手にスタートした、「外界から逃避してでも、二人で暮らす」生活。
そして、いやが上にも高まるばかりの、二人の熱い、熱い相手への想い・・・。

だから私は、二人が共用する広いベッドで寄り添って休む時はいつも、
必要以上にぎゅ~っとあいつの手を握って、あいつの瞳をみつめて・・・心から願うんだ。
もう、何があっても離さないで。
私は他にはもう何も、要らないから。
この先ずっと、この隠れ家生活を続けられれば、それだけで私はいいから・・・



「牧野?おまえさ、次の日曜日時間空けて。」
道明寺は、ベッドの上でいつものように私の身体を引き寄せた後で言った。
そうやって、二人の身体が堅くしっかりと、密着する時、
ふっと私の力は抜けて、傍らの男に自分の全てを預けて・・・
そして、私は世界中の何ものからも守られているんだって感じる・・・

「・・・えっ?あんた今、日曜日は空けとけとかって、言ってた?」
「反応おせえよ、おまえ。」
私を見つめる男は、優しく笑っていた。
「人の言うことは、ちゃんと聞け。」
「・・・。」


その大きな腕の中にいるのが、あまりに心地よいからだ。
だから余計なことは、ちょっとの間待ってて。・・・こうしていさせて。
私はね・・・今晩もあんたが、ついさっきまで真剣な顔で海外と交信して、難しい仕事に取り組んでたのを知ってる。
とっても厳しい顔をしてたのに、こうして私の前ではなんて甘い表情に戻ってくれるんだろうね・・・。
それが、嬉しくて。
思わず目を閉じたまま、抱きしめられる感触に浸っていたくなる・・・。

「おい牧野?・・・おまえ、寝たんか?」
「ごめ・・・。つい、ぼーっとしちゃって・・・あの。あんたとこうしている時間が好きで、
すっかり安心して、ゆったりしちゃったんだね。」
顔を赤らめて言う私に、道明寺は仕方ないヤツだとばかりに、
ごく軽くこつんと頭を小突くようにした。


「それで。ええっと・・・あんたの用件の続きだけど?」
「おう。・・・つまり、だ。こんな狭いとこにずっとしけこんでたら、
おまえが退屈してんだろうし、気分的にもよくねえだろうって、あいつらが心配してさ。
この日曜にあきらんとこが持ってる別荘だかなんかに、繰り出そうってことになった。
まあ、早い話がドライブ付きのダブル・デートってとこだ。あきらは、桜子を連れてくっつってた。」

「ダメだよ!あんた達ときたら、何考えてるのっ!?」
さっきまでのゆったりした、のんびりした穏やかな幸福感は、このとんでもない提案にかき消された。
信じられないって言いながら、私はまだ自分を抱きしめている男の顔を、
ぐっと睨みつけなきゃ、なんなかった。


「そんな危険なコト、できっこないじゃない!?それに、あんたの仕事考えてみなよ。
そんなことしてるヒマなんか、どこにあんのよ・・・」




(続く)



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