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現在、御礼文は一つです。
運命で、息苦しい程の甘い世界の続き。キラシンラクです。
「シン、おはようございます。キラはもう起きていらしてよ。さぁさぁ朝ご飯は冷める前に食べてしまってくださいな。」
「おはようございます、ラクスさま。」
「あらあら『ラクスさま』ではないでしょう?シン?」
「…おはようございます、ラクス。」
「あ、シン。おはよう。」
プラントの首都、アプリリウス郊外の高級住宅地の中心にある屋敷のオーシャンフロントのバルコニーには朝日が今朝も燦々と差し込んでいる。昨晩は同じベッドに入ったはずのキラはもう軍服に着替えていてラクスが言ったようにカフェオレを飲んでいた。
「キラさん!何でラクスさまが俺を起こしに来るんですか!」
キラとラクスが籍を入れたと同時にシンは二人の養子として組み込まれ、以前二人がオーブで暮らしていた場所を復元したらしい屋敷で現在は三人で暮らしている。ラクスはまだ最高評議会議長を務めているが、キラとラクスが籍を入れたことにより生じたザフト内での季節外れの人事異動がイザークを大層悩ませたらしい。シンはヤマト隊に所属していて、二人はプラント宙域の最前線でテロの警備にあたっていた。軍神と呼ばれたキラ・ヤマトと先代議長の懐刀であったシン・アスカが最前線にいるのはまだ旧ザフトのテロや海賊が多く治安が悪いからだ。其れがいきなりアプリリウスでの議長警護を言い渡されキラはともかくシンは怒らないはずなかった。
「僕に比べたらシンは良いよ。僕なんてラクスに叩き起こされたんだからね。」
「そう!だからって、何であんな…!あぁもう!」
シンは頭を抱える。キラとラクスが籍を入れた、即ち結婚しても二人が同じベッドで寝ることはなく、それどころかキラはシンのところへ潜り込む事が多くなった。キラがシンのベッドで寝る、と言うことはそういう事で、キラもシンも事を終えた後は疲れ切ってしまっていてそのまま眠ってしまう。そのまま朝を迎えることが殆どで、毎朝シンのことを起こしに来るラクスは何をしていたかわからないはずないのに、何事もなかったのように全裸で寝ているシンのシーツを剥ぎ取り額にキスを落とす。
『では、私とも一緒に寝て下さいますか?キラばっかりシンを独り占めして悔しいのですもの。』
どうしても耐えられなくてラクスに直談判した時は、本気なのか冗談なのかわからない笑顔でそう言われてしまい、またシンは頭を抱える羽目になった。
少し前に行われた異動挨拶でも、顰めっ面をしたシンと苦笑いのキラにラクスは『まぁまぁお二人とも、ご苦労様ですわ。』と笑顔で迎えた。まぁ偶然、とでも言いたげな其れにシンは抱いていた純真可憐な歌姫のイメージを全て崩す事となったのだ。
彼女はすべてを見通す力を持っている。それ故にくえない女なのだよ。
彼女をそう評価したのは誰よりも信じていたデュランダル議長である。エターナルと言う戦艦を率いてフリーダムと言う剣を従えた彼女は戦場を駆ける誰よりも美しく誰もが見惚れる。彼女の本当は歌姫なのか政治家なのか。多分どちらも本当の彼女で、本当の彼女ではないのだろう。ラクスにそれを問うたとて返答は決まっている。
「私は私ですわ。」
だから、くえないのだ。
「シン、コーヒーをどうぞ。」
いつの間にかバルコニーへ戻ってきていた彼女はシン専用のマグカップに淹れられたコーヒーを置いた。キラはコーヒーより紅茶の方が好きなので朝はミルクと砂糖たっぷりのカフェオレ、シンとラクスはブラックコーヒーを好む。彼女の淹れるコーヒーはとてもシン好みなのだ。
「ありがとうございます。」
一口含めば深い苦味が口の中に広がった。そうしてやっとシンの頭は覚醒する。
朝はいつもカリカリに焼いたベーコンにふわふわのスクランブルエッグ。サラダにクロワッサン二つである。この家にはお手伝いさんはいないから全てラクスが作っているのだろう。
「ほらラクス。シンは朝から君の顔なんて見たくないって。いい加減僕とシンの邪魔をするのは止めてよね。」
シンがそれに手を付けていると、キラの不機嫌そうな声が聞こえる。朝の二人の口論は今では習慣になってしまっていた。とろとろなスクランブルエッグにケチャップをかけながらシンは聞き流す。
表面上とは言えキラとラクスは結婚していて、シンは養子扱いになっているのだから此処での生活がマスコミにでも洩れてしまったらプラント一のスキャンダルに成る事間違いない。キラもラクスも国民から支持が高いのだ。大々的に入籍を取り上げたのだってその辺の政治的な部分が大きいのだろう。
「とは言いますがキラ?貴方はもう少しシンの身体の事を考えるべきですわ。昨晩だって無理をさせたのでしょう?もうお盛んな学生ではないのですから。…そんな事では、シンに嫌われてしまいますわよ。」
「僕とシンは愛し合ってるから良いの。でもラクスは単なるお邪魔虫でしょ?一緒にしないでくれないかな。」
キラとラクスの言い合いはシンが朝食を取っている間中続く。即ちシンが食事中はずっと続くのだ。
「ごちそーさま!」
朝食位ゆっくりとらせて欲しいと思うが殺気立ってる二人に挟まれているのは心臓に悪い。結局シンはさっさと食べ終えて席を立つ事しか出来ないのだ。
「まぁ何を仰っているのかしら。キラの方こそ…あら、もうこんな時間ですの。急がないとイザークが迎えに来てしまいますわ。」
シンが席を立つとどちらかが一緒に席を立つ。そうしてやっと二人の言い合いは終わるのだ。
「ほら、早くしないと遅れる、でありますよ。」
まだ支度が終わってないから、と自室に戻ろうとするとキラが同じく軍服を取りに戻る。
「キラさん。」
「ん?」
「何だかんだ今の生活が好きですよ俺。」
「そっか、良かった。」
世界に溺れる前の優しい世界
20100415 息苦しい程の甘い世界続き
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