樹と巴(小話)


「いっちゃん、あのね、ともえは川のところで拾って来たんだって。
だからね、ママがお片付けしないと、また捨てに行くって言ったの。
……もう赤ちゃんがいるからともえはいらないのかな」


 あれは妹の祭が生まれたばかりの頃だったと思う。
 母親にかまって欲しくてわざと片づけをしなかった巴に、母親が怖い顔をして言った。
 今でこそ母親の冗談だとわかるが、毎日「お姉ちゃんになったんだから」と言われ、生まれたばかりで手のかかる妹に母も父も取られたような気がしていた巴は本気にしてしまったのだ。


「は?何いってんの」
「いっちゃん。だからともえは川の子なんだって」
「大丈夫だって。さるなお前を抱いたおばさんをこの俺が見たんだから!」
「だって…」
「わかったよ。
川の下にお前が落ちていたとしたら、俺がちゃんと拾ってやる。それでいいだろ?」
「本当に拾ってくれる?」
「約束する」
「いっちゃん、大好きっ」







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