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◆◆家族の肖像〜if〜◆◆泉恵子

「コースケ、ほら見て!」
 母親が妙に浮かれて携帯の液晶を突き出してくるので、泉はげんなりして覗き込む。夜、コンビニに牛乳と明日の朝の納豆を買いにいって戻ってきたそのタイミングだ。
「……なに? これ?」
 ぎょっとした。
 携帯の壁紙はどういうわけだか母親と若いオトコのツーショット写真だ。
 母より大分身長が高くて、茶髪。見るからにだらしなさそうなやにさがり笑顔が全開なのが気に入らない。二人してばかみたいにピースサインなんかしているのもまた腹が立つ。
 大体男の年齢が若すぎる。
 息子である泉と同じくらい……正確にはひとつ年齢上という事実はいかがなものだろうか。母親として、倫理観・道徳観に欠けるとしか言いようがない。
 息子の冷たい視線などものともせず、母親は満足げな顔で「他にも、こんなのとか」「こんなのもあるのよ」と得意そうに若い男とのツーショット写真の数々を見せびらかしてくる。
「一緒に撮ってもらっちゃった。結構よく撮れてるって思わない? 前に一緒に撮ってもらったの、さっき送ってもらったのよ。あんたなかなか帰ってこないんだもん。ヒマだったからメールしたら即。いいでしょー」
「よくねーよ」
 三枚目あたりで既に限界を超えた泉は「てか、なんでそんなうれしそーにしてんだよ」とクレームを入れた。
 どれもこれも父親以外の男とのツーショットだというのに、母親の顔が若やいできらきらしているように見えるのが何よりも気に入らない。
「第一、そのツーショの相手がなんで浜田なんだよ。シュミわりーな」
「あらあ、浜ちゃんは父母会のアイドルなのよ? かっこいいわよねえ、彼」
「……」
 ストレートな讃辞に、泉は黙り込む。
 息子の沈黙をまるで無視して、母親はにこにこしながら自分の携帯を眺める。
「礼儀正しいし、みんなをがっちり仕切ってくれるし、第一学ラン姿がかっこいいのよね。それにこの前なんてね、スーパーの駐車場でばったり会ったんだけど私が抱えてた荷物を車まで運んでくれたのよ」
 うっとりと夢見るような眼で言われると、泉としては内心フクザツだ。
(お袋に会ったなんて話、聞いてねえぞ。さらにポイント稼いだとかなんだよそれ)
 あとで説教をしておかなくてはなるまい。
「あーもー、お母さんがもしも同級生だったら間違いなく恋してるわー」
「げ」
 泉は思わずうなり声をあげてしまう。
「なんだそりゃ。キモい」
「あら、結構本気なんだけど。コースケが女の子だったら、絶対彼氏に推薦してたのになあ。残念」
 全身の血の気が一気に引いて行くのを感じた。よりによって、なんという恐ろしいことを言うのだろうか。自分の母親ながら、泉は恐ろしくなった。
 ぶるぶると何度も首を横に振る。
「キモい。キモすぎる。信じらんねえ。ってか、なんだよその発想。ありえねー」
「何よ、その言い方。ねえねえ、浜田くんって彼女いるの? いるわよねえ。こんな子、女の子が放っておくわけないわ。あれでしょ? あの、チアの子とか」
「ちげーよ」
 言われたことに猛烈にムカついて、泉はさっさとその場を去ろうとした。
「ええ? 違うのー? なんかお似合いなのに」
「違うっての!」
 思わず大声を出したが、男子高校生の母親はびくともしない。
「なによ、大声出して。わかった、あんた、チアの子の誰かに気があるんでしょ? そんな乱暴だとモテないわよ。浜田くんみたいに優しくてかっこよくなきゃ」
「それも、ちげー……うるせーよ。ほら、牛乳、買ってきてやったから。もう寝る」
 なんだかがっくりきてしまって、さっさと自分の部屋に引っ込む。母親が何やら背中で言う声が聞こえたが、聞く気にもならない。早く1人になりたかった。
 ぱたりと後ろ手にドアを閉じる。
 そうして、さっきから痛いほど鳴り続けている心臓のあたりをそっと抑えた。

「……親子して、男のシュミ同じとかって、すげえキモい……」

 それから、そっと少し腫れた唇に指で触れた。

「つーか、息子にキスした後でその母親に写メ送る野郎のどこが推薦に値するって?」

 泉は大きく息を吐く。
 それからさっきのキスの最中に浜田の携帯が鳴っていたのは自分の母親からの写メ催促メールだったのかと思いだしては、ひとりがっくりうなだれた。
 とりあえず、浜田への猛抗議、決定。






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