「はい、渋谷の分250円」

受け取ったお釣りの中から硬貨を摘まむと、反射的に差し出した手の平に乗せてから村田は財布をしまう。少しだけ俺の方が得をしているみたいだけど、いちいち追及するのも面倒なので黙っておいた。

「はー、お腹一杯」

「だな」

店の外に出ると夏にしては涼しげな風が吹いて、着こんだスーツには丁度良い具合。
クールビズと言えども、なかなかスーツ無しで歩きまわれないのが現状で。荷物になるから結局着てしまうとこれまた暑くて。

「昼間よりかは大分涼しいよねー。今日はまた暑かったもん」

「な、外に出るだけですげー疲れるよ。これで明日休みだったらいいんだけど」

「ねー」

信号待ちをしながら空いた左手をポケットに突っ込む。携帯を取り出せば特にメールも着信も無い。まぁ大体そうなんだけど、つい見てしまうのは手持ち無沙汰を感じているからだろうか。

「渋谷はお盆休みいつから?」

「来週半ばから、かな」

久々の村田との食事は駅近くのファミレスだった。次の日に仕事があるのと体力的に疲れていたので手軽に済ませたけど、酒が絡まない分、ゆっくりと話ができた気がする。
「僕もそれくらいかな。でも取れるか微妙なところだけど」
何時振りだろう。偶然こっちの方で仕事の予定があったので村田にメールを打ってみたら丁度良くつかまって。久しぶりな気もするけど、会社以外の繋がりで最後に会ったのは村田だと思うから、そんなに長く離れてた気もしない。

「最後に会ったの何時だっけ?」

「何時だっけ。6月とか?」

「そう思うと結構経ってたんだな」

駅をぐるりと囲むロータリーを歩きながら一歩一歩、村田との時間が終わってしまうんだと思う。タイムリミットを歩幅で数えて、何か伝えたい事があるんじゃないかと脳内を探れば、ぼんやりとした答えしか出てこない。

「渋谷は電車だよね、僕ちょっと用事があるからここで失礼するよ」

「あ、そうなの?」

しくじった。タイムリミットは思ったより短くて、別れはすぐそこまで来ていて。何か全然、思った事は言えなくて。
いや、何だろう。執着するような性格でも無いと思ってたんだけどな。

「じゃあ、またご飯でも行こうね」

「あ、ああ」

分かれ道を駅とは違う方向に歩きだす村田の背中を見送ると、それは人込みに紛れて小さくなっていく。無性に寂しいと思ってしまうのはきっとおれだけなんだろうか。
携帯を取り出すと思いきってアドレス帳の文字を探す。村田の名前を見つけるとぴ、と通話ボタンを押した。
暫く呼び出し音が鳴って、村田の声がする。

『渋谷?どうしたの?』

「えーと、別に大した用でもないんだけど」

でも、声が聞きたいし、もっと話したいし、時間が足りないとか。
そういう事を一気に解決するにはどうすればいいんだろう?




「…あのさ、来週休み取れたらどっか行かない?」

















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