いつもありがとうございます。
ささやかながら、御礼として「ケーキ」をご用意いたしました。
クリームたっぷりの甘い一切れ、どうぞご賞味くださいませ。






『天使のおやつ ケーキ編』

基本のスポンジケーキの作り方。

1、小麦粉、バター、卵、砂糖を必要分用意します。卵は常温に戻し、白身と黄身に分けておきましょう。

2、白身をしっかり泡立てます。砂糖を入れるタイミングに注意しましょう。あまり早いとしっかりとしたメレンゲになりません。

3、振るった小麦粉とバター、砂糖を合わせ、黄身を混ぜ込みます。メレンゲは最後に3分の1ずつ入れ、泡が潰れないようにさっくりと混ぜます。

4、クッキングシートを敷いた型に入れて、予熱したオーブンで約40分焼きます。

5、焼き上がって粗熱がとれたら、デコレーションです。ふわふわのホイップクリームや、好きな果物で飾りましょう。


「……以上。簡単でしょ?」
 ぽてん、と真ん中に苺を落とし、リノアはキスティスとセルフィに向き直った。
 2人は難しい顔をしている。
「……簡単?」
「難しいやろ……シロウトには難しいやろ……」
 キスティスとセルフィには、とんでもなく高い山の天辺を目指すような心持ちにさせられるもののようだ。メレンゲがどうの、小麦粉の振るいがどうのと言い合っている。
 対して、リノアには彼女達の心持ちがわからない。
 確かに、メレンゲを立てるのは難しい。というか、面倒臭い。だがハンドミキサーを使うなり男手に任せるなりしてクリアしてしまえば、後は混ぜてオーブン任せにしてしまえばいい。しかしこの部屋では、そう考えるのはリノアだけのようだ。彼女がそんな提案をすると、2人は微妙な顔をした。
「『あの』いいんちょに手伝わすの?」
「チャレンジャーね、貴女……」
「というか、スコールが寄ってくるんだよ」
 スコールが部屋にいるときに料理なり製菓なりしていると、構ってもらえないのが嫌なのか、頼みもしていないのに寄ってくる。興味津々の様子で手元を覗き込んできたり、おもむろにナイフを手に取り手伝ってくれたりする。まだ一品を任せられる程ではないが、この間はオムレツをマスターしたようだから――ある朝珍しく早く起きたと思ったら、平静を装いながらも嬉々として出してきたのだ――、将来は有望だ。こういう時は仮令出来栄えが微妙でも褒めちぎるに限る。
 そんな話を聞いたキスティスは、えらく遠い目をしていた。セルフィは笑いを噛み殺すのに必死である。
「あ、アーヴィンもお手伝いしてくれるけど、いいんちょがお手伝いとか考えつかなかった……っ!」
「人間、変われば変わるものね。何か……幻滅?」
「うわ、キスティきっつ〜」
 セルフィはとうとうお腹を抱えて大笑い。キスティスは難しい顔で首を傾げつつ、リノアの肩を叩く。
「それはともかく、もう少しやりやすそうな方法はない? 具体的には卵を分けないで作れる方法が有り難いんだけれど」
「卵を分けない方法ねぇ……ちょーっと待ってね〜」
 リノアは持ってきていた料理本のページをぺらぺらめくり、キスティスのお望みを叶えるべく探索する。
「あー、あるにはある、けど……共立て、は湯煎しなきゃだからもっと面倒だし、ベーキングパウダー使ってもメレンゲ立てるのは変わらないしねぇ……ホットケーキミックス、使おうか」
「簡単?」
「簡単。間違いなく簡単。よし、小麦粉をホットケーキミックスに替えよう。卵を分けなくて良いし、それなりに膨らむし」
「よし、じゃあそれで〜!」
 大笑いからやっと回復したらしいセルフィが拳を振り上げ、キスティスは泡立て器を握り改めて気合を入れていた。

「で、テイストの違うケーキがふたつな訳か」
「そうそう」
 スコールの目の前には、小さめではあるがお世辞にも「ショートケーキ」とは言い難いケーキが、ふたつ並んでいた。昼間に女の子3人で作ったふたつのケーキを、3人で等分に分けたのだ。
「スコール食べるよね? どれくらい……って、聞くまでもないか」
 リノアは豪快にも、ケーキをそれぞれ半分ずつにした。スコールはにんまりとして、「流石、わかってらっしゃる」と満足げに頷く。
「はい、召し上がれ」
 スコールは差し出されたケーキを前に両手を合わせると、いそいそとフォークを入れた。最初の一口を飲み下した後、もう一方も口にする。
「どう?」
「どっちも美味しいけど……こっち、リノアの味じゃないな。こっちがホットケーキのだろ」
「よくわかるねぇ?」
 リノアがくすくす笑う。
「いつも食べてるから。リノアのは、何か優しい味がする」
「作った本人全くわからないんだけど」
「多分、惚れた欲目的補正」
「えー、欲目ー? せめて愛情補正って言わない?」
 このやろ、とリノアがこめかみを小突くと、スコールは舌をペろりと出してリノアへフォークを差し出した。リノアはそれに刺さったケーキを口に含む。そして、意味ありげな目をしてスコールを見つめる。スコールはフォークを置くと、誘われるようにリノアへ顔を寄せた。
 甘い甘いキスを交わし、2人はくすくすと笑い合っていた。

End.



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