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以下、フラワーbabyニアの物語***純型花***を掲載しております。

パラレル要素が強いので苦手な方は御注意下さいませ。



























“世界で一番ピュアな花”




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***純型花***




世界規模で広がりを見せる金融危機の波は我が社にも例外なく押し寄せ、
仕事に追い捲られる状況の最中、長年付き合っていた女性から
唐突に別れを告げる一通のメールが送られていた事に気付いたのは
既にメールが送信された時刻から随分と時間の経った後であった。

此方の何が悪かったのかと考える余裕など仕事への気力で使い果たしていた。

相手の言い分を全て無視した向こう側の一方的な終止符の打ち方に
今まで溜め込んでいたストレスが一瞬のうちに溢れ出し、自棄を起こして飲んだ暮れ。

完全禁酒を友人達に宣言して何ヶ月か。
どちらが呑まれているのか見当も付かないほどに
その晩は酒を求めて繁華街を彷徨った。

終電の時間など既に過ぎ、
タクシー代も馬鹿にならぬとふら付く足で家路を急げば
久方ぶりの飲酒が祟ったのか吐き気に苛まれてしまう始末。

ふと闇が蠢く通りの隅にひっそりと佇む一軒の店から
うっすらと明かりが差されているのに気付く。
シャッターも閉められておらず、店の扉には「OPEN」の文字看板が下がったまま。

入り口付近にあるカウンターの椅子に腰掛け、
カップを片手に持ちながら本に目を通している人物と目が合った。

立派な白髭をたくわえ眼鏡をかけているその老人はゆっくりと近づき扉を開けた。

羞恥を覚悟で吐き気を訴えると
物腰の良さそうな店主は微笑んだまま店内へ自身を招き入れた。

案内された手洗い所で事なきを終え、
今日は散々過ぎると思いつつ戻った店内を見渡せば
アンティークを取り扱った店なのか雑貨店なのか判断が付きにくいものの
物静かなオルゴールが響き渡る不思議な空間がそこにはあった。

いつもこんな時間まで開店しているのかと聞けば
ウトウトしているうちに閉店時間を過ぎてしまっただけとのこと。

それは運が良かったと思いつつ、
閉店時間外へ突然来訪した不躾への謝罪と礼も込めて
何か買わせてもらおうと辺りを見渡してはみたものの、
千鳥足に加え、酒のせいか辺りがぼやけて商品を選ぶ状態ですらない。

そんな自分を見兼ねたのだろうか。

微笑を崩さぬまま店主は腰掛けていた椅子から立ち上がり、
これはどうかとレジの奥にある戸棚の隅から
「“H plant”」とだけ記されている一つの植木鉢を取り出した。

一見すると何の変哲もない土の入った普通の植木鉢であり、
どんな植物の種が植えられているか等の説明書きも値札も付けられていない。

しかし時間的な事も考え、それを戴こうかと財布を取り出せば
「貴方ならきっと大切に育てて下さると信じて御代は結構です」と
店主は光沢のある大きめの袋に入れた植木鉢を
落とさないようにと念を押してそっと自分の掌に握らせる。

そんな訳にはいかないと言うものの半ば強引に持たされ、
元より買い手が付かないものだからと背中を押されるまま店の外へ。

身体に鞭打つような生活は毒ですよと今の自分の状態に釘を差しつつ、
終始にこやかに微笑む老人がやがて静かにシャッターを下ろした後には
うっすらと照らされていた辺りが一瞬にして闇に呑まれていったのだった。

扉が閉められる直前、最後に
「お客様、」と続けて呟かれた意味深な言葉は
店主なりの挨拶代わりだったのだろうか。


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おかしな夢でも見たかのような感覚を覚えながら
頭痛を抑えて無事に帰宅したものの、時刻は既に夜明け前であった。

私生活上における胃痛原因の一つでもある
反抗期真っ只中な同居人の学生靴は見当たらない。

恐らくまた一人暮らし中の級友宅にでも寝泊りしているのだろう。

これが普通の家庭なら即座に説教するなり
堕落した生活態度を改めさせるのが世間の常識なのだろうが、
もう諦めているのか見捨てているのか最近は構う気も起きない。

学校では猫を被っているのか、
生活態度などで呼び出しを受けた事は一度もないので
同居人がこんな生活をしている事が非現実の気さえする。

脱いだ上着と緩めたネクタイをハンガーにかけ、
キッチンまで重い体を引き摺りながら水を飲みに行ったついでに
そこで容器に注いだ水を例の乾き切った植木鉢の土へと流し込んだ。

恐らく店の奥に長い間ひっそりと置かれたままだったのであろう。

干乾びた感が漂い、もはや花が咲くかも分からない哀れな存在。

仕事もプライベートも一息つける暇がなく、
一欠けらの安らぎを与えてくれる事もあった相手から
突然一方的な別れを切り出されて長年の関係に終止符が打たれた事には
ショックを受けたというより普段表立たない自尊心を傷つけられた感覚に陥り、
簡単に自棄を起こした今日の自身の一部始終が馬鹿らしく思う。

何かに慰めてほしかったのだろう。

だからと言って話も通じないこんな存在にまで縋っているような、
そんな自分が至極空しく感じて仕方がなかった。


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いつの間に眠っていたのか。

ソファーに横たわっていた自分を目覚めさせたきっかけは“匂い”であった。

“匂い”と言っても香水が放つ人工的なものではない。

全身を優しく包み込むような自然的な草木、柔軟な甘い花の香り。

カーテンを開けたままにしておいた為、飛び込む日差しに一瞬目が眩んでしまう。

過度な飲酒行為が原因で容赦なく響く頭痛を抑えつつ光に慣れてきた瞼を開けた。

……その途端、目の前に広がる光景に思考が一瞬のうちに停止させられたのは言うまでもない。

テーブルに置いておいた例の植木鉢から溢れ出る巨大な花弁の存在。

そしてその花弁の中央には頭部に白の花を咲かせた
見目赤ん坊のような存在が静かにこちらを見据えていたのだから。



“「お客様、それはね、世界で最も純粋な花が咲くんですよ」”


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Pearly Party*



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