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以下、キリ椿 獄ツナ どちらとしても読める
同棲カップル設定の小話です。
(※現在お礼文は1点のみです。)
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朝の光が窓からさしこんで、部屋中が蜂蜜色に満たされている。
金色のうぶ毛が光る、桃のような頬にくちづけを落としても、あなたの薄いまぶたはまどろみに閉ざされたまま開かない。
みずみずとしたくちびるをそっと啄むと、睫毛がふるりと震えたけれど、あなたはまだ甘い夢のなか。
そっと部屋を抜けだして、向かいのパン屋に飛び込む。
焼きあがったばかりの石窯焼きパンを買って大急ぎで部屋に戻ると、あなたはまだミルク色の毛布にくるまって、すこやかな寝息をたてている。
一緒に買った林檎を剥いて、ベーコンと目玉焼きを焼いて。野菜たっぷりのスープに、レタスだけのサラダ。
いれたての珈琲を、おそろいのマグカップに注げば、あとはあなたを起こすだけ。
俺の部屋は長いこと、ただのねぐらだった。
いつ引っ越すことになってもいいよう……いつでもここから消え去ることができるよう、身のまわりの物はできるだけ少なく、個性のないものばかり選んでいた――執着することのないように。
そんな暮らしぶりを、あなたは変えてくれた。
一緒に買ったマグカップ。一緒に選んだフロアライト。一緒に使う目覚まし時計。
思い出の品が、ひとつずつ、ふたつずつ、増えていく。
今ならわかる――孤独で苦しかった日々は、あなたの傍に居場所を見つけるためにあったのだと。
もうそろそろ、部屋じゅうにひろがった珈琲の香りが、あなたを夢の世界から、こちらへ誘なってくれている頃だろう。
一緒に育てている鉢植えが、はじめての花を咲かせましたよ――そう言ってくちづけを落とせば、あなたはきっと目をさましてくださるだろう。
そしたら何ひとつ欠けたところのないしあわせな一日が、ここから、はじまる。
あなたがいてくださるこの部屋――この、世界の中心から。
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