桃源郷にて… その1

パットンがこの暗い洞窟、しかしランスに言わせればパラダイスに入ってずいぶん時間が経つ
「遅いな、何してるんだあいつは」
ヒューバートは多少イライラしてそばにいるフリークに愚痴る。
「なあに、そのとおりナニをしているんじゃよ。ワシもこんな体でなければぜひとも挑戦したかったのじゃが」
フリークは表情があまり表に出ない顔ながら、声だけは茶化したように答えた。
「…ナニ?まさか」
「察しのいいお前さんなら気付くじゃろ?」
「…よくハンティが許したな」
ヒューバートは以前パットンに聞いた「なぐりまくりたわぁの悲劇」を思い出した。
パットンがMランドのアトラクションをクリアし、ご褒美としてもう少しで可愛い女の子と事に及ぼうとした直前。
目の前にハンティが出現、泣きながら電撃を落としまくったらしい。
その余波は凄まじく、Mランドのまわりは壊滅。
パットンもしばらくは起き上がれないほどの重体だったらしいが…
「それはちと脚色入ってると思うがの…」
「おい!じいさんお前エスパーだったのか!?」
「エスパーも何も、目の前でぶつぶつ独り言言われたら嫌でも耳に入るわい。…実はハンティはこのことはしらんのじゃ」
「え!?」
「まったくランス殿も人が悪い。ハンティがいないときにパットンを桃源郷に行かせて幻滅させようなどと」
まだあきらめてなかったのか、あいつ…とヒューバートは驚き、呆れる。
「でもな、俺なぐりまくりたわぁの一件を聞いたかぎりじゃ無駄な気がするんだが…」
なぐりまくりたわぁの一件、どうも聞いたかぎりでは愛想尽かされてもしょうがないしな。
特にパットンはその前、どうしようもなくグレてた時期があったのはヒューバートも知っている。
それでも、ハンティは驚き泣き、怒りつつも決してパットンを見捨てることはなかった。
そんな二人の推移を実際に見ているのはヒューバートとフリークだけだが、そうでなくとも周りはすでに
この二人の仲が並々ならぬものだということを理解している。
「鈍いのかな、あいつも」
ふと、ヒューバートはそうつぶやいていた。
「そんなことは聞かぬともわかっとることじゃろうて。あの朴念人のおかげで何回じれったく思ったことか」
フリークはそれに答えるが、それはヒューバートが考えている対象者とは違っていた。
「そうじゃなくて、ランス王だよ。勝ち目もないのにハンティにちょっかいかけてるし、鈍いとしか思えない」
「そう思うか?お前さんもまだまだ若いのう。」
「そりゃどういうことだよ、爺さん。」
にやにやしながら答えるフリークにぶすったれて聞くヒューバート。
若いといわれたのが不満なのか。
「ランス王はとっくの昔にあの二人のことはあきらめてるのじゃよ」
「へ?」
「ただ、ほっとくのも悔しいからちょっかいかけているだけじゃ。中々可愛いもんじゃて」
フリークが玉座で盗み聞いたある日の会話。
ランスは「世界に一人だけならしょうがない」とパットンに言っていた。
そして、イラーピュ墜落の時の逃げ出した時のある話。
(ランス王にも世界に一人だけの人がいるのじゃろ。いやいや、いい事じゃ)
フリークは口には出さないが、心の中で微笑ましく思っていた。
「…爺さん。それも年の功で分かるのか?」
納得いかない、という様子で不思議そうに尋ねるヒューバート。
「そういうことじゃ。お前さんも後何十年か生きてみれば分かると思うぞ」
「そういうもんなのか?」
「よぉ…」
ふと、ヒューバートは背後に人の気配を感じた。
「な、なんだパットンじゃねえか」
後ろに立っていたのは待ち人ことパットンだった。
「いや〜、ほんとにランス王の言ったとおりパラダイスだったぞ。」
「本当か!?いやそれにしちゃ何か疲れてるように…」
「気のせいだ。だからお前も行って来い」
にこにこと1000万ゴールドを渡し、ヒューバートに告げるパットン。
「何かお前にしちゃ気がきくな…まあいい、それじゃ言ってくるぜ」
クールに決めながら洞窟に入っていくヒューバート。
ただし、足は間違いなく浮き足立っている。
「行ったの。どうじゃった?あそこは」
「…全て搾り取られるかと思った」
ヒューバートの姿が完全に消えたと同時に、地に膝をつきパットンは答える。
「そうじゃろうな。」
「爺さん、最初から知ってたのかよ!?」
「伊達に長く生きとらんわい。それにしても、いい修行になったじゃろ?」
「ああいう修行は勘弁してくれ…」
げっそりとした顔をしてパットンは答える。
「まあいいか。これからヒューにも同じ目にあってもらうしな。一人だけじゃ割りにあわねえ」
「お主そのつもりじゃったのか。まあ、中々の演技じゃったの。」
「そうだろ?あいつが帰ってきたときが楽しみだぜ」
得意そうに胸をはるパットン。
しかし、その顔がにやにやといやらしい笑みに歪む。
「…でもすっげえ柔らかかったよなぁ。そういう目ならもう一度あってもいいな」
「…この顔はハンティには見せられんわい、やれやれ。」
肩をすくめ、苦笑するしかないフリークだった。






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