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 暑い。
 それはもうひたすらに暑い。
 学校の中でも一番太陽に近いわけで、それも仕方ないといえば仕方ないが。
 梅雨ってやつがようやく明けて、空は手が届きそうなほど近い。
 あいつならどう思うだろう。
 なんて考えてみたりする。
 本当に届くのかどうか確かめる為に空へ手を伸ばすのか。
 それともあの雲が綿飴か何かに見えて涎を垂らすかもしれない。
 そうでなければあの雲を、あの白い雲をもじゃもじゃした天パに見立てて。
 ぼんやりそんなことを考えながら棒付きアイスをしゃぶった。
 ガリガリ君と迷ったが、シロクマも久しぶりに食べるとうまい。
 ぽたりと白く雫が落ちるのを避けようとアイスを振った。

ゴン。ベチャ。

 ゴン?べちゃ…?
 妙な効果音に振り返れば。

「何するアルカァァア!!!!」

 シロクマは見知った分厚い眼鏡に直撃し、その真下ではガリガリ君が太陽の
日差しを燦燦と浴びていた。

「おめーかィ。暑いなぁ今日は」
「おまえ今全部無かったことにしよーとしてるだロ!!してるんだロ!!何だ
不正か不正行為カ!!」

 一人ブチ切れるチャイナ留学生を放ってアイスを食べなおそうと前を向き直
ると、アイスを持った腕を思い切り掴まれた。

「何するんでィ」
「それはこっちのセリフヨ!!」
「俺はアイスの汁垂れんの避けただけでィ」
「アイスの汁避けんならおまえが動けお前が!!!」

 あーあ、面倒臭ぇ。食べ物のことになるとこいつは異常に面倒臭ぇ。はぁ。
一つ溜め息をついた。せっかくの昼休み終わり(要するに授業中)をワーワー
騒いで潰すのも野暮な話だ。あばよ、と小さく心のうちで呟いてアイスを手放
した。ベチャ、と先にも聞いたような無残な効果音がガリガリ君の上で響いた。
ような気がした。

「何してるアル!!もったいないネ!!」

 あーあ。結局喚くのか。というか食べるツモリだったのか。というか眼鏡や
ら鼻やら頬っぺたに滴ってるシロクマを拭き取りやがれ。せめてバニラとか白
っぽくないアイスにすりゃよかったと心底思う。何故ってそりゃあ青少年です
から。
 心の声が聞こえたとは思えないが、ポケットからティッシュを出して苛苛と
怒りながらシロクマの残り香をごしごし拭いている。ティッシュか、リアルだ
な。そんな風に思ったことを口に出せば、この暑苦しくて居苦しい午後が余計
に暑苦しくて居苦しくなってしまうからやめたけど。

「これでお互い様でさァ。ホラ、こっちきててめぇも座んねェ」

 アイスの侵害をうけていないコンクリートにぺたりと座り込み、その隣をぺ
たぺたと叩いて促した。案の定、俺の勧めたところから1メートルほど離れた
位置にそいつは座り込んだ。

「せっかくの昼休み明けが台無しアル」

 アイスを手放したことで怒りは七割ほど収まったらしく、残り三割でボヤい
ていた。

「なぁ」
「何アル」
「おめーはどう思う」
「何が」

 さっき考えていたことを思い出した。
 ゆるり顔を上げて気だるそうに空を指差す。

「空見て。おめーはどう思う」

 無邪気な様で俺の指さすものを目で追って空を見上げる。
 ぼんやりと、さっき俺がしていたように眺める。

「星が……」

 眉を寄せた。
 真昼に何を言うツモリなのかとその横顔に目を馳せる。

「ホントに今もあるのか気になるヨ」

 予想大はずれ。視点が違う。
 やっぱりグローバルなのか、馬鹿なのか。

「外れたか…」
「何が」
「おめーの考えること予想してたんでィ」
「勝手に予想してんなヨストーカー」

 不名誉な称号を受けて思わず笑った。
 いつもなら掴みかかって既にケンカが勃発してるわけだが。
 あーあ。
 どうにも視界が違うようだ。
 同じ物を見ているようで全く違う世界が広がってるんだ。
 コト、と小さな音がした。
 ふと見るとシロクマが溶けて棒がこけた音だった。
 シロクマとガリガリ君が溶けて濁った水色になっていた。

「溶けちまおーか」
「は?」

 仲良しこよしでやってるアイスを見つめながらぽろりと零す俺を怪訝そうな
目で見ているのがわかる。

「俺らも溶けちまおーか」
「は?」

 何の問題も無い極自然な問い。また妙なことを言い出したと、自分でもそう
思ったが。

「てめーのことがわかんないんでィ。溶けちまったらわかるだろィ」
「何言ってるネ、変態が」

 不快そうな顔で蔑む相手を気にもせず、校舎に背を預けてまた空を見上げた。
 白い鳥が一羽過ぎ去るのが見えた。
 海でもないのにとも思ったが、昔のおっさんが詠ったとか言う歌を思い出した。

「よいしょ」
「……?」

 チャイナ娘がペタペタと数歩歩いて、座る。
 ちょうど先ほど勧めた席だった。

「影が足りなくなったから、それだけヨ」

 同じように背を預け、空を見上げていつも通り無表情で言う。
 俺も無表情なままで空を見上げ直し、ついでにピンクの頭へ手をやった。
 ぐいっと力を込めて自分の肩に寄せる。

「何してるネ!!」
「別に」

 手をするすると下して肩を抱く。
 思ったよりその身体は小さかった。

「暑いーーーーっ。溶けるヨ!!溶けちゃうヨ!!!」

 腕の中でもがいているのを気にせずぽんぽんと肩を叩く。
 あーあ。結局静かに午後を過ごせねー運命なのか。
 まぁ毎日のようにこいつに会うためクソ暑い屋上に上ってくる俺が言うセリ
フでもないが。


 ぺちゃ、と鬱陶しい音をたてて、二つのアイスが仲睦まじく最期を遂げた。















拍手ありがとうございました!

以前沖神祭りで投稿させていただきました。これが自分なりの甘甘ですが何か(爆
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+ 悲しいのは、僕等はこんなに離れ離れで、それでも息をするしかないってことだ。 +





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