第一章:龍司視点





 まったく、あの子は…。


 約束の時間は午前十時。
 今は太陽が高く上って空は清々しく晴れ渡っている。

 …恭夜は、基本的には約束の時間を守るけれど、遅れるとわかってしまうと途端に遅刻なんて気にしなくなってしまう子だから。

「…どこで油を売っているんだあの子は…」

 せっかく秘書にも無理を言って時間を空けてもらって、暫く理事長室には誰も来ないよう人払いまでしたというのに。
 …彼には悪い事をしたな。遅刻分を考えると予定外に時間がかかりそうだ。
 まぁ、恭夜に関しての時間は決して惜しむつもりはないんだけれど。

 そんな事を考えて苦笑を洩らして、どうせ待つだけで暇なら迎えにでも行くか、と椅子から立ち上がった所で。

 ガン! …と。

 …この丈夫な理事長室の扉を軋ませるのは中々出来ることじゃないんだけどね?
 意趣返しに思いきり勢いを付けて扉を開けてやれば、そこには扉からはちゃんと避けはしたものの若干固まった恭夜の姿。並外れた反射神経は健在のようだ。
 しかしノックは足でするものじゃない。少し脅しを込めてニッコリと嗜めれば直ぐに謝ってくる恭夜が可愛くて仕方ない。

 室内に招き入れてその体を抱き締める。
 編入試験を受けさせるために会った以来だから約二週間ぶり、かな。
 相変わらず自分には抱き心地の良い体に満足して、ついでにキスを落としてソファへと移動した。

 ノックを蹴りでするくらいだから機嫌が悪いんだろうと聞いてみれば、どうやら篁君に会ったらしい。…確かに、彼は恭夜の苦手な分類だろう。しかしああいうタイプは一度気に入られると後々厄介だから油断ならない。下手に生徒会長だなんて権限を持ってる分、余計に。
 まぁ、たとえ噛み付いてこようが、理事長である自分にはどうにでも出来るけど。




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