「なあなあ、ユミちゃん。例のゲームしよ?」

 日曜の昼下がり、突然そんな言葉から始まった。
 というわけでなぜかトランプを始める聖と弓生。弓生も取り立てて用もないし、目を通していた本も何度か読んだことのある本なので、珍しく二つ返事で了承した。
 言うと怒るから流しておくが、分かりやすく言うと暇を持て余していた、といったところか。
 まあ弓生に言わせると、たまには付き合わないと聖が怒るから、とでも言うであろう。
 因みに例のゲームとは、なんでもいいのだが聖が弓生に勝てれば望みをひとつ叶えて貰えるという単純なもの。
 今までにもパン焼き器だの新しい冷蔵庫だのブルーレイレコーダーだのいろいろ望みを賭けて挑むものの、けれども聖は未だかつて弓生に勝てた試しがない。
 だが聖は諦めたことはなかった。
 今回も張り切ってゲームを進める。


―が。



「あかん!また負けてしもた」

 ポーンとトランプを宙に放る。
 オセロに将棋に囲碁。すべて悉く完敗した。
 まあ頭脳戦で弓生に勝てるはずがないというのは、分かってはいたのだが。

「ユミちゃん強すぎるって」

「お前が弱すぎるんだ」

「うー。よっしゃー!ほなもっぺんや!!」

「まだやる気か?いったい何時間やれば気が済むんだ」

「もちろんオレが勝つまでや」

「いい加減にしろ」

「ええやんか。ユミちゃんどうせ暇なんやろ?」

「別に暇だと言った覚えは一度もない。ただ時間を持て余していただけだ」

―(それを暇というんやで)

 とは思ったが、機嫌を損ねたらあとあと面倒なので、そういうことにしておいた。だが―。

「あー。あかん!また負けてしもた」

 やはり全く歯が立たない。

「ちぃとくらい手を抜いてくれてもええやんかぁ」

 思わず拗ねてしまう。

「ほぅ…手を抜いても良いのか?」

「うっ…」

 確かに負け続けは悔しいが、だからと言って手を抜かれて勝っても嬉しくない。

「よっしゃー!!ほなもっぺんや!今度こそ本気でやるで!!」

「今までは本気じゃなかったのか?」

「やかましい!細かいことは言いっこなしや!いくで」

 聖は腕捲りをしながら、今まで以上に気合を入れて挑む。が、またしても負ける。

「くっそー!なんで勝てへんのや」

 大江山の頃は博打は得意だったはずだ。
 いや、今でも弱い方ではない。普通に比べたら強い方だ。
 だが相手が悪いだけであって…。

「なぜそんなに勝ちに拘るんだ?」

「せやかてユミちゃんに勝ったら望みを叶えてくれるんやろ?」

「ああ。そういえばそうだったな。なにか欲しい電化製品があるのか?」

 トランプを切りながら問う。

「ちゃうわ」

 呟きながら目の前に置かれるトランプを手に取った。

「デートしたかったんや」

「え?」

「ほら、最近二人で出掛けてないやんか?せやからたまには二人でドライブして、映画見て、買い物して、旨いもん食って、ついでに夜景なんか見えたら最高やな……って」

「下らんこと言ってないで続けるぞ」

「うん」

「そういえば俺が勝ったらお前が望みを叶えてくれるのか?」

「もちろんええよ。それにユミちゃん勝ちっぱなしやから奮発したるわ」

「じゃあ…映画」

「映画?」

「見たいのを決めておけ」

「えっ?」

「ドライブして映画見て買い物して旨いものを食いたいんだろう?あと夜景もか」

「ほんまにええの?オレ、勝ってないで?」

「俺が勝ったから構わん」

 聞き違いじゃないかと思う言葉に思わず耳を疑う。

「…ユミちゃん」

「俺は食事の場所を探しておくから」

 だが、聞き違いではなかった。

「ユミちゃん…」

 嬉しさが溢れ返ったかのような満面の笑みで弓生を見つめる。

「ほな、ユミちゃんが好きそうな映画探しとくな」

 もはやゲームの勝負はどうでもよくなった聖であった。





〜終〜




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バカップル万歳★
(掲載 2009.3.8〜)






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