拍手ありがとうございます。

少しの間こちらに置かせて頂きます。

"それだけ"10話で初ページのみ掲載です。

続きはもうしばらくお待ち下さい…。




+++





ぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐる・・・はぁ、



かれこれ30分。
スザクが受付ロビーの一角を陣取ってからひたすらにうろうろと行きつ戻りつを繰り返していた時間である。
通行人に対して全くもっていい迷惑であるスザクのこの行動、だがしかし、対する周囲の目は思ったよりも厳しくはなかった。


というのも、今スザクがいるこの場所は、曲りなりにも尋常な神経の男であれば多少の居心地の悪さを禁じえない産婦人科であって、そんな女性集団の中において残念ながら尋常に含まれなかった男、枢木スザクは浮きはするものの彼が真面目な好青年にも見えることから周囲の好感を買っていたのである。


つまりはまぁなんて年若い旦那様なのかしらしかもいい男こんなに不安気な顔をして余程奥様が心配なのね頑張れ頑張れと、少し誇張は入っているかもしれないがそんなわけである。


ならば待合室にいればいいものをこんな所を徘徊しているような不審さも彼女たちに掛かれば理想の夫像を重ね合わせた夢見がちな幻想へと様変わりとするようで、もしも彼女たちがスザクの所業を知れば現在集めている初々しさと微笑ましさへの一方的な奨励はたちまち蔑視と批難との視線に様変わりすることだろう。知らぬことは本当に平和である。



・・・まぁそんなどうでもいいことは置いておくとしてだ。



ユーフェミアとのけじめをつけ、今頃はあんなにも焦がれていたルルーシュの元へ駆けこんで必死の謝罪を行っている頃だろうと思われたスザクが、何故未だにこんなところでうろうろと、唯でさえ遅れている弁明を更に先延ばせているのかと言うと・・・



「はぁ、どうしよう。ロイドさんに啖呵切ってユフィにけじめをつけてきたのはいいけど・・・」




一体今更ルルーシュに何と言って謝ればいいのだろう―――?




実に馬鹿らしく、そして腹立たしいがそんな理由であった。





傍から見ればいっそ呆れを通り越して憐れにすら思えるこの駄目男、けれど当人にとっては割と深刻かつ切実な問題であった。というのもあれほど好き勝手にやってきたスザクではあるが、さすがに今回のことはすべてが済んだからと言って晴れやかに顔見せ出来るほど図太い神経までは保有していない、・・・簡単に言えばルルーシュに対して会わす顔がないと、そういうわけなのである。(当たり前というか自業自得なことだが)


そもそもが今までにろくに謝罪というものをしたことがないスザクである。
形ばかりのそれであれば全くということもないのだが、けれど本当に心からの謝罪というと話は別であったスザクにとって口だけとは違う、いわゆる誠意と呼ばれるものは示す方法がわからないだけでなく、感覚的にもよく分からないものであったのだ。
ちなみにユーフェミアに対するそれが人生初めての謝罪であって、一応それなりの体を成してはいたのだが、当のスザクにその自覚が無いために今現在も無為な時間を過ごすことになっている、ということにスザクが気付くにはもう少し時間が必要であった。(ロイドがいたら冷笑の後、ルルーシュとは二度会わせてくれないこと受け合いの素晴らしい甲斐性ぶりである)


話を戻そう。


そもそもスザクが何故こうも突然に謝罪について頭を悩ませているのかと言うと、だ。
先まではスザクの中でルルーシュはなんだかんだ言いつつも最終的には許してくれるのでないかというどこまでも都合のいい考えが心の片隅にあったりもしたのだが、時間が経過するにつれて今度は、そんなルルーシュの優しさに甘えていていいのかという生意気な葛藤(その上今更である)と、そしてロイドの話を聞いた今ではさすがに今度ばかりはルルーシュも本気で怒っているのではないかという不安も次第に募ってきたためにである。(スザクの前ではルルーシュは何でも受け入れてきたので怒ったルルーシュというのはとても想像しにくいものがあるのだが)



つまり、このまま何食わぬ顔をして会いにいってもいいのだろうかと(※良いわけがない)、少しくらい釈明(※言い訳)を考えておいた方がいいのではないかと、無い知恵を振り絞り、小賢しい策を弄していた結果だったわけである。





「・・・今まで散々にルルーシュを良いようにしてきた上に平然と振られて(振らせて?)しまった僕(※反省の証)ですが今更自分の気持ちに気付きました。こんな僕ですがこれからは誠心誠意精一杯頑張らせて頂く所存ですのでもう一度僕とやり直してはくださいませんか?かしこ(※女性用)」


以上、謝罪文より一部抜粋。






「・・・・・・有り得ないだろ」





もしこれが紙であればぐしゃという擬音とともに丸められて廃棄処分を免れえなかったであろうそれは、いくら今まで謝罪をしたことがない自分でも笑顔でコップの水をひっくり返して別離どころか絶縁すら突き付けてやりたいような最低レベルの出来であった。



スザクは頭を抱えた。
そもそも気付いたタイミングが悪いのだ、と思う。
気持ちに気が付いた時点ですぐにでもルルーシュに弁明をしているのならまだしも、別れてから一度も会っていなかったこのタイミングで、しかも子供がいると知った矢先によりを戻そうだなんて。
下手すれば子どもがいるから態度を変えたのだとあらぬ誤解をされてもおかしくない。(というか印象が最悪だ)
いくら自分には甘いルルーシュとはいえさすがにこれは、何と言うか、・・・切れてしまうだろう。(自分ならまず間違いなく切れている。・・・5年前に)



「・・・謝罪がこんなに難しいとは思わなかったな」



スザクは本日何度目になるかわからないため息をついてから頭をくしゃと掻き抱いてそんなことを思った。



先ほどから随分な言動が目立つがスザクは別にふざけているわけではない。
むしろ本人は至って真面目で、(まぁ本気で考えてこの言動に至る辺りにスザクの問題点が垣間見える気がしないでもないが)だからこそ素直に謝ればいいものを、わざと迂遠するような大層な弁明を考えて余計に深みに嵌まっているのである。まぁその元がルルーシュに許されなかった場合への恐怖に起因するものであることを思えば、多少の情状酌量はあるのかもしれないが。(※あくまで謝罪の一点に関してのみである)



とりあえず、スザクは先まで動き回っていた足を一旦落ち着かせると傍にあった椅子にどすんと乱暴に腰掛ける。
そして膝の上に肘を置き、再度その両腕で頭を抱え込むような態勢を取ると改めて深淵へと思考を巡らせた。
自分を整理する必要があったのだ。

そうしてからようやくスザクは自分が落ち着きを無くしていたことに気がつき、顔に苦笑を滲ませた。
自分はそれほどまでに参っているのだろうか?
いや、参っているのだろう。



心から謝りたいという気持ち。
ルルーシュを好きで大切で堪らないという気持ち。
ずっとルルーシュに隣りにいてほしいという気持ち。



冷静に考えていけば確かに、してほしいこと、それから伝えたいことはこんなにも明確にあったのだから。



勿論それだけが全てではない。
他にもルルーシュに言いたいこと、言ってあげたいことはたくさんあるのだ。そしてだからこそ、それがうまく言葉にならないもどかしさにスザクが唇を噛みしめることになっているのだということにも。
語彙が少ないのとはまた違う言い回しの難しさ。
自分は多くを伝えたいのか、それとももっと強く伝えたい何かがあったのか。
いや、それすらも今はどうでもいいことなのだ。
ただ自分はルルーシュに今までのことを謝罪して、そしてこれからどうしたいのか、ルルーシュがどうしたいのかを聞けばいい。
ただそれだけ。それだけなのだが・・・



それだけのことが出来ないからスザクはどうにも出来ずにいるのではないか。



告白どころか謝罪すら満足に為し得ない今の現状にスザクは自身を少し、というかかなり情けなく思いやってからやはり自己嫌悪の波に呑まれるのであった。





「心は今すぐにでも会いたいと叫んでるのにな・・・」



どこか寂寥感に溢れたものになってしまうのは仕方のないことであった。
考えてみればスザクはルルーシュとまともに会うのは2ヵ月ぶりなのだ。客観的に見れば短くは無いが長過ぎるという程でもないその時間。けれどその間ずっとルルーシュは音信不通となっていて、その行方を知ることが出来なかったスザクにとってそれは間違いなく後者に属するものであったのだ。その堪え難い程に気の遠くなるような時間に、自分は幾度ルルーシュに会いたいと思ったか。そしてそのルルーシュとようやく、やっと会えるというのに、下らないことを延々と考えるしかない自分。



どこまでも矮小な男だな、俺は・・・。



スザクは自身を嘲笑するしか出来ない。
果たしていつまでこんな所にいるつもりなのか。
ようやく会いたくて会いたくて堪らなかったルルーシュがそこにいるのに。
しかも今度は偽りのないスザクとして、だ。
今までのように自身の見えない感情に怯えることもなければ、先の見えない想いに怯える必要もない。
ありのままの自分としてルルーシュに会えるのだ。



そこまで考えてから、スザクは不意に思い出す。



いつもいつも、こうやって肝心な時に怯えてきたからこそ簡単なことに気付くのに5年も掛かったというのに、もしかして自分は今また同じようなことを繰り返しているのではないだろうか?
言いたいことを言えず、向き合うことを放棄した結果が先の別れだったというのに。
今更何を恐れることがあるというのだろうか。





だって彼女を失うこと以上に怖いものなんて無いんだってもう十分に分かったじゃないか。





スザクはもう一度くしゃりと髪を掻き分けた。



「・・・会って話そう」



スザクの瞳に先までとは違う光が浮かんでいた。
稚拙でもいい。見っとも無くとも格好悪くとも、とにかく真っすぐにぶつかってみるのだ。
自分たちはまず会うことから始めるべきで、一人で考えるのではなく会って自分の素直な気持ちを伝えることが何よりも大事なのだ。ルルーシュならばきっと心からの言葉であれば受け止めてくれるはず。いや、怒っていてもいい。自分の正直な気持ちを伝えて。それから今度はルルーシュの話も聞くのだ。どんなに些細なことでもいい、面白い話も面白くない話も、嬉しい話だって悲しい話だって、ルルーシュの口から全部聞いて、そして全部知りたい。この5年間で足りなかった時間を今度こそ2人で埋めたいのだ。





それはようやく辿り着いた真実のような気がした。





そう思ってしまえばスザクは今度は一刻も早くルルーシュに会わなければならない焦燥感に駆られる。



もはや衝動にも近いそれにスザクは逸る気持ちに任せて席を立ちそれからエレベーターに向かった。けれど患者用に速度を遅くして造られたエレベータがボタンを押しても一向にやって来ない。痺れを切らしたスザクは、待つのをやめて階段へと急ぐ。二足飛びに階段を駆け上がり着いた先、5階と書かれた扉を開け通路の先に見えたネームプレートはこの階に一つしかない個室を考えればルルーシュのいるそこに間違いはない。
焦る心を落ち着けるように、廊下に設置されている窓から梅雨にしては珍しく激しさを伴う雷雨に視線をやるが、けれど、すぐにどうでもいいことだと片づけたスザクは、




その雨によって一つの絶望が齎されていただなんてことは考えもしなかった。






+++



出来るだけ早く続きup致します・・・。








ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。