ほんの悪戯心。
あたしばっかり心配して、嫉妬して。
悔しいから、少し意地悪。
ねぇ、たまにはあたしだけを見て?
あたしの為に焦って見せてよ。
こっそりと歩く速度を落とした。自分よりも幾分大きな背中は、人の波に飲まれていく。それを見つめながら、ドキドキする胸を押さえて唇を結んだ。
ねぇ、ここであたしがいなくなったら、あなたはあたしを探してくれるかな。
どうか、いつだって真選組のことを考えて、あたしになんか目もくれないあなたを試すようなことをするあたしを許してください。遠ざかる背中に合掌して、くるりと踵を返した。つもりだった、のに。
「っ!」
「馬鹿、迷子になりてェのか?」
左上から呆れたような声が降ってくる。がっちりと左腕を掴まれ、逆方向に進めようとした足は動かなかった。恐る恐る振り向くと、鬼の形相。何だか知らないが、怒っている?身体中の体温が急激に上昇してるような気がして、あたしは動揺を隠せなかった。
「あ・・いえ、その・・ちょっと、忘れ物を」
「・・・奇遇だなァ?俺もだ」
目の前の端整な顔がふ、と笑った。と同時に浮遊感を感じ、視界が高くなるのがわかる。足元が不安定なあたしは、必然的に土方さんの首元に縋るように抱きついた。この際、人込みの中だということは構っていられない。
「わ、ちょっ・・土方さんっ?」
「お前な、いい加減俺を困らせるようなことすんのやめとけよ?」
「なっ、いい加減って、まるであたしがいつも土方さんを困らせてるみたいじゃないですか!」
「自覚ねェとこが一番心配なんだよ」
必死で土方さんにくっつきながら疑問の表情を向けると、抱き上げられたせいであたしを上目遣いで見上げる土方さんと目があった。はぁ、と溜め息を吐いたくせに、愛しそうにこっちを見るその目にドキドキする。あたしの首の後ろに添えられた大きな手に引き寄せられて、少し頬を染めた顔が近づいた。
「俺の目の届く範囲にいろっつってんだよ」
「ひ、土方さん・・」
「いいな?」
有無を言わせないその強引な物言いにそぐわない、赤い顔。熱い頬に自分の頬を摺り寄せれば、土方さんは慌てたように名前を呼んだ。
(誤解だった。縛られてるのはあたしじゃなくて、)
土方十四郎(銀魂)