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WEB拍手御礼SS    鏡の中の迷宮〜Extra Episode〜 4





 そうしてまた月日は流れ、平次が17歳になる日を迎えた。
 その日は昼間から沢山の人々が屋敷に出入りし、中には大きなプレゼントを持った人も複数訪れた。
 平次のバースディパーティは夜遅くまで続き、漸く訪問客が帰ったのは、もう少しで日付が変わろうかという時刻だった。





 宴の余韻を残して屋敷の住人がすっかり寝静まった頃、部屋の扉が静かに開けられた。
「今日は俺の誕生日なんやで。憶えとった?」
 するっと体を滑り込ませ、幾分か声量を抑えた声で囁く。暗闇に光を灯して扉を閉めた彼の真っ直ぐな瞳に、新一は緩やかに笑みを刷いた。
『憶えてるよ。毎年騒いでるじゃねぇか』
 新一の微笑を見て、平次は嬉しそうに笑うと歩を進めた。鏡の前に佇む。
「こないな時間になってしもて堪忍な。寝てしもてるかも…と思うたんやけど、そう言うたら俺、おまえが寝てるトコ見たこと無いねんな……ちゃんと寝てるんか?」
 心配そうに鏡を覗き込んでくる。新一が薄く笑うと、平次はどこか腑に落ちない表情をしながらも話題を変えた。
「そうや、聞いてんか〜。親父からこ〜んな分厚いプレゼントもろたんや。珍しいな〜思たら、何やったと思う?よりによって参考書やってんで〜!?欲しかった新刊かと思うたのに、がっくりやで。そんなん、誕生日プレゼントに渡すモンちゃうやんって感じやろ?」
『はははっ。そりゃ、残念だったな。ちゃんと勉強しろよ』
 俺みたいな目に遭わないように、様々な知識を蓄えて。
 新一が寂しげに瞳を俯けたのに気がついたのか、平次は一瞬黙り込むと、後ろ手に持っていたものにチラリと視線をやった。正面に手を回して暫くそれをじっと見つめた後、意を決したように口を開く。
「……ほんでな。おかんからは、こんなんもろてん…」
『……?』
 すっと新一の目の前に差し出されたものを凝視する。それは古い一冊の本だった。
 タイトルは……「鏡の中の迷宮」…?
 新一が不思議そうに平次に視線を戻すと、彼は新一に向けて伸ばしていた腕を戻し、本を俯いた。
「この本、昔話でな。昔むかし、ある国の王子がある日突然鏡の中に閉じ込められてしもた…って話やねん…」
『!!』
 視線を落としたままポツリポツリと告げる声に耳を疑う。
 それはまるで、自分のことのような―――…。
「他の人が読んだら、ただのお伽話やって思うんやろうけど……俺にはそうは思えへんのや…。何や、これって、おまえのことみたいな気ぃして…な……」
『…………』
 黙って平次の声を聞く。そして次の瞬間、新一は先程自分が予感したことが的中したことを知った。
「そんで、この本の表紙捲ったとこにな、『我が息子、新一に捧ぐ』って書いてあんねん」
 言いながら表紙を捲って新一に向ける。そこには、見慣れた文字で確かにそう書かれていた。
 それは紛れも無く、17年間見続けて来た彼の父親の文字で…。
 大きく瞳を見開く。
 それでは、この本は新一の両親が書いたということなのか。
 大切な一人息子を鏡の中に閉じ込められ、悲しみに暮れた二人はその思いを一冊の本に書き記したのだ。
 一体、どんな思いで……。
 表情を変えた新一に、平次が確信を得たように瞳を上げる。
「…おまえの名前、『工藤新一』って言うんや…?」
 窺うような声音。
 新一は意識せず震える唇を片手で覆い隠すと、ゆっくりと頷いた。
 何年振りに聞いたであろう、自分の名前。
 あの憎らしい魔法使いには何度も呼ばれているけれども、目の前の彼に呼ばれて思いがけず感動し、口元が微かに戦慄いた。
 そうして、忽ち目の前に咲く大輪の花。
「やっと、おまえの名前わかった。嬉しいわ」
 ふわっと、まるで向日葵の花が咲いたような微笑みに、新一は思わず瞳を細めた。






5へつづく



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